□焼き餅焼きな温水トイレのナゾ
□焼き餅焼きなクルーザーのナゾ
□山本式ピアノマスク製作のナゾ
□山本式ピアノマスク設計目標のナゾ
□焼き餅焼きな旧車のタイロッドのナゾ
□ピアノにみる音質グローバライゼーションのナゾ(その3 過渡特性編)
□ピアノにみる音質グローバライゼーションのナゾ(その2 アリコート解析編)
□ピアノにみる音質グローバライゼーションのナゾ(弾き比べ編)
□電子ピアノの修理のナゾ(コルグ/ヤマハ合作編)
□のだめに見るありがちな音楽トラウマのナゾ
□SRS(R)と山本式バーチャルサウンドシステムYVSSを比較する!のナゾ
□接触不良USBを救うコンタクトRのナゾ
□暖房機器のアキレス腱、フレームロッドの風水クリーンアップ!のナゾ
□新春特別プロジェクト ”リチウムZ” 始動!のナゾ
依然としてピアノにはまっているWebmasterである。亜麻色の髪の乙女、月の光(mp3ステレオ128kbps)、そして沈める寺(mp3ステレオ128kbps)、と弾いて来てドビュッシーも一息というところだ。次はラフマニノフ/パガニーニのカプリース18番あたりの強力な引力に惹かれている。問題はピアノを練習していると、ひっきりなしにく焼き餅焼きな機械が壊れる事である。
今回の不具合は、
□年末恒例の故障家電品一斉修理と新型特殊研磨紙コンタクトRのナゾ
で登場した温水トイレの不思議な動作で、省電力設定がなぜか自然にOFFになってしまう。その状態では省電力ボタンを押しても有効とならない。
そこで洗浄ボタンを押すと暫くタンクに注水する音がして、再度省電力ボタンが有効になり、その後の動作は普通通りである。しかししばらく時間を空けると、再度省電力設定が消えてしまうのだ。
どうやら漏水のために数時間でタンクが空になり、水位センサーがコントローラに水位低下を伝えると、そこで省電力の制御ループからはずれたままになるようだ。本来故障ならランプが点滅して知らせるなどの制御を行うか、あるいは省電力は維持するのが常識なので、これは故障と制御のバグが複合したトラブルであろう。
分解してみると、タンクにはポンプから水が送られ、タンクから切替弁を経て温水吹き出し口に繋がっている。切替弁は通常、ビデ、掃除のときの吹き出し口を切り替えるようになっている。その出口はタンクのかなり高い位置にあり、ここから漏水しても水位は低下しない。
タンクの底にもうひとつ出口があり、そこには写真のように、タンク内圧が上がると水を逃がす安全弁がある。分解すると、キノコのようなプランジャーがあり、これにはまったOリングがフランジに接触して通常は閉じている。タンク出口の切替弁が動作時にタンクの内圧が上がるとここから水を逃がすようになっている。
写真でわかるだろうか、上のOリングは下の新品と比べ形状がいびつになっている。これを新品と交換することで、動作は正常になった。
一件落着と言いたいところだが、問題は弁の設計と仕上げがマズいことである。まずOリングの使い方が正しくない。というのは、Oリングはプランジャーからかなり横にはみ出た形でフランジに押しつけられているのでゴムがヘタると漏れる。そもそもOリングの弾力に圧着力を依存するのは良い設計では無い。
本来はプランジャーのOリングを押しつける背後の高まりがもっと大きく、Oリング全体を弁座に押しつける設計でなければいけないのだ。もうひとつ、Oリングの弁座面の成形が悪く段差がある。Oリングは成形不良を写し取るようにいびつな形になっていたのである。ということは、この故障はまた3年後に再発するということだ。
この温水トイレでは以前に書いたように弁座スイッチの品質不良があった。たびたび接触不良を起こし接点を磨いていたのだが、スイッチを交換してからは一度も接触不良が無い。つまり、最初のスイッチが粗悪品だったのである。
そして、今回のマズい設計である。この製品が原子力プラントなども製造するH社の製品というのがちょっと心配である。というのは、センサーのスイッチとかOリングの使い方はメカトロの基本であって、基本的な部品に不良が多発すれば、モグラタタキのように故障が頻発する。
組み上げると交換できない部所にOやセンサーがあれば、それこそオーバーホールに近い修理が必要になることもあるだろう。あるいは装置全体を交換したほうが速いこともある。
ということで、かつて過剰品質で信頼性の固まりのようであったH社の家電製品の面影は今となっては全くないのである。これではNIES製品以下ではないのかと生産国を調べたところ、日本製ではなかった。それを喜んでいいのか、あるいは憂うべきなのか、複雑な思いである。
相変わらずピアノにはまっているWebmasterだが、先日の車に引き続いてここ数年使っていた自動巻(ラドーバルボア)が突然止まった。中をあけると水が入ってさびついている。
ここ数年使ってきて突然止まるのもヘンな話だが、自動巻まで焼き餅を焼くのか?。とすると、次は自転車か、船か。自転車は3台あるので全部が一度壊れることはなかろうが、船はちょっと気になる。
そういえば、この夏は一度出航しただけであまり相手をしていない。しかし、乗るたびに不具合を見つけるので、足が遠のいていた。今日こそは意を決してお相手することにした。
さっそくエンジンをかけてみると、セルもまわって調子よく始動した。後ろから冷却水もでている。しめしめとしばらく運転して充電でも、とお茶を買ってきてしばらくすると、 ”ピー”なるアラームがなった。水温警告灯が光っているでは無いか。
あちゃーと思いながらもwebmasterは今回は驚かなかった。この故障は何度かあったからである。このエンジンはヤンマー製だが、長く乗らないと冷却水の塩が詰まって水ポンプが壊れるのである。
これが問題のポンプでゴム製のインペラーをはずし、ガスケットを削り取ったところだ。一見何も問題無いように見えるが、よく見るとハウジングがロータリエンジンみたいに三角形になっている。
あれートコロイドポンプって三角形してたっけ?出っ張っているところが白いけど?と、突いてみると硬い。さらに2,3突きするとポロっととれた。もう一カ所も傷をつけないように削り取った。
今回の故障は、この硬い塩の出っ張りのためにゴム製のインペラーが回らなくなり、中央のカーラーとの間が破断したのである。これは部品の交換が必要だ。
水ポンプはエンジンの一番低い所にある。そして左下のパイプはバルブを経て船底に繋がっている。ここでバルブを開ければ水船なるのが不気味である。幸いメカニックの店は開いていて部品は在庫していた。道具箱をあさると、以前に交換した不良インペラーまで出てきた。要するにありふれた故障なのである。
トコロイドの内面には他にも塩が出っ張っている所があった。ポンプは腐食に強い真鍮製で周りには緑青がついている。不思議なことに中央の軸はステンレスと思われるがまったく腐食していない。
これはエンジンの水路に犠牲電極(亜鉛)があり、それがZn++とイオンになって溶け出すことで電子を残し、エンジン全体の電位をマイナスとしているからである。このエンジンはすでに20年選手であるが、前回オーバーホールしたときも内部の腐食は軽かった。
写真は内部を清掃したところで、右側は新しいインペラーを装着したところである。あとはガスケットとフタを固定するだけだが、ガスケット面をキレイにしておかないと必ず水漏れする。その場合、バルブを閉め忘れたらこの前のように水船になる。
こういう時は、慌ててはいけない。まずビルジを排水し、紙を置いて水滴が垂れたらわかるようにして再度お茶を買いに行った。10分ほどして戻ってきて漏水が無いことを確認し、締めまして修理は終了である。
さっそく試運転を行うと、勢い良く水がでるとともに、多くの白い塩の結晶とどす黒い錆びが出てきた。水量が増えたのでゴミが排出されたのだろう。水が透明になるまでさらに10分待ってエンジンを止めた。
原因は、しばらく乗らないと水路の水が蒸発して海水が濃縮され、水路一番低いポンプのところに塩が析出するのである。エンジンは漁船と共通で、毎日使われる前提で設計されているので、時々しかエンジンを回さないとありがちな故障なのである。
さて帰るとするか。しかし、と点検するとスピンポールのライン(ロープ)が破断しているではないか。またフェンダーが一個パンクしている。いやなものを見てしまったが、これは次回修理することとしよう。
自宅に戻ると、家族が出かけるところだった。と、その車(ビッツ)のエンジン音がカラカラとうるさい。あとでエンジンルームを空けると、水ポンプから音がしているようだ。
次は別の車か。そして水ポンプ繋がりか。ネットで検索すると、このトヨタ車の水ポンプは3万キロあたりから壊れることがある、とある。それって欠陥じゃないの?交換部品も潤沢に出回っているのが不気味である。
イヤなことは続くものである。やはり全てのモノには魂が宿っていて何かと焼き餅を焼く。身辺はすべからくシンプルにしておかなければいけないのだ。
依然として、ドビュッシーにどっぷり浸かっているWebmasterである。個人的にはバッハ、モーツアルト、ベートーベン、ショパン、リスト、そしてドビュッシーと音楽の歴史を辿りたい所だが、Webmasterの腕では時間が掛かりすぎる。このままでは、死ぬまでにドビュッシーまでたどり着けないのでは無いか?
Webmasterの年齢になると病気やケガのために、得意なスポーツが出来なくなった友人も多くいる。最後においしいデザートを残しておくと食べ損なう可能性も無しとしない。やっとこさ亜麻色の髪の乙女、月の光と来て、沈める寺に着手したところである。
年のせいか、ドビュッシーの和音一つ一つに涙が出るほど感激の毎日で、他の名曲をパスしたのは正解だったと思っている。今後はアラベスク、パスピエ、水の反映、喜びの島と進んで、次はラベルのパバーヌ、鏡、ガスパールに着手したころに脳卒中というのが予想コースであるが、Webmasterの腕ではドビュッシーの間に脳卒中になるかも知れない。
というわけで、夜間に練習するためにも山本式ピアノマスクの完成は絶対条件だったのである。ピアノマスクの自作後1ヶ月の評価を経て、絶対の自信をもってこのピアノマスクをお勧めする。
写真をよく見ると、カーペットに支柱の跡がついていることが見えるだろうか。カワイとヤマハでは高音側の支柱の位置が若干違う(RX-3までは高音側の支柱が中央から出ている)が、カワイ製の開口部が低音側に寄っているので、高音部の響板は支柱でかなりの面積が塞がれているので、高音域の響板からの音の出口が狭いのだ。それが開口部を開けても詰まった音しかしない原因の一つである。
これに対し、山本式ではすべての響板が等しい割合で開口するし、その音はすべて演奏者に向かうことになる。この点、カワイ製は基本設計に問題があると言わざるを得ない。
必要な部品
なるべく木目の美しいコンパネ(12mm厚)、丁番2個、かんぬき1個、穴あきの板、合繊カーペット、スポンジテープ、ボンド、紙ヤスリ、黒塗料スプレー。合計約5000円以下である。
ピアノマスクの自作手順
1)まずピアノの底の型板取りから始める。段ボール板をグランドの底に画鋲で仮留めし、脚持ち(通称カマボコ板)と鍵盤の棚の間の型どりをする。国産の場合は側板から鍵盤の棚にかけてでっぱりがあるので、角を切り取る必要がある。また開閉のために前端と外端を各5mmずつ小さく作り、隙間はスポンジテープで塞ぐ。左右端も5mm程度小さく作るのがベターである。
注意を要するのは、脚持ちと鍵盤棚が平行では無いことだ。今回これを採寸の誤差だと思って切り出したので、後でカンナで修正する必要があった。修正作業は疲れるので、採寸は何度も確認することが重要だ。
長いピアノでは開度を増やすとピアノマスクが床につかえるので、開度を制限するか、途中に分割線を入れて丁番とかんぬきで固定する工夫が必要になる。
2)型板にそってコンパネを切断する。あらかじめホームセンターで大まかに切断してもらい、曲面を回し鋸か電動ジグソーで切り抜くと良い。断面は紙ヤスリをかけて丸くしておく。ここが山場で回し鋸はけっこう疲れる。最近は電動ジグソーが安価(数千円)になったことに気付いてずいぶん後悔した。
3)実際にピアノにあてて細部寸法を確認、調整する。問題なければ塗装し内面にカーペットをボンドとタッカーで貼る。乾燥には十分を時間を置く(数日臭うので)。
4)カマボコ板に丁番で2カ所固定する。固定の間は床の束金具(左の写真に写っている)で板を固定しておくと一人で出来てラクである。束金具はネジにグリースを補給しておけばピアノジャッキとして使えるので、移動にも便利である。
このピアノマスクではカワイ製と異なり、音質に重要な側板には手をつけておらず、カーペットがパッキングとなるので振動も拾わない。最小限のネジ留めなので、小ホールでコンサートに使う事があっても(無いとは思うが)取り外しも簡単である。
5)棚板の中央付近に穴あき板をネジ留めし、マスクにもかんぬきをつける。この2つが開度調整装置である。穴あき板の先は直角にまげ、かんぬきが抜けた場合の安全ストッパーとする。マスクを90度開けるにはストッパーをよけて解除する。
これで完成だ。蛇足だと思うが、開け具合の調節は、かんぬきを差すの穴を変える。ピアノの下に手を伸ばす必要があるが、細工が好きな方は絵を吊るワイヤーと自在ストッパー、滑車などで鍵盤側から調節できるように工夫して欲しい。(実は部品は手当するが面倒で組み込んでいない)
ピアノの底からは主に中低音が出る。一方上側から出る中高音は、前屋根と前框(鍵盤フタの上にある横木)との隙間をゴム(W201のダンパーアッパーマウント)で調節している。譜面台は前屋根の上におく。
さて、ピアノマスクを全開すればカワイ製と違って実に爽快な音である。いや、ピアノマスクが反射板として効くので、演奏者にはピアノマスクが無い場合よりもさらに大きな音が届く。アリコートで高音が勝ち気味のこのピアノではちょうど良いくらいだ。ジャマな場合は簡単に撤去できるし、大屋根の様にはずせる丁番があれば便利だろう。
次にピアノマスクを次第に閉じていくと、周囲の音量は開度に比例して減っていくが、ピアノマスクに反射した音のほぼ100%が演奏者に向かうため、20度位までは演奏者は全開と比べ音量低下を感じない。もちろん周囲への音量はどんどん減っていく。通常は20度と全閉の間の調節で十分である。
今回は以前ピアノの底に貼っていたカーペットを吸音材と側板のパッキングとして利用したが、ピアノマスクを全閉しても音のバランスは良好で、カワイの製品のように籠もった音は無い。
隙間が10度以下になると急に音量が減っていくが、それでも隙間からの音はすべて演奏者に向かうので、十分に中低音が感じられる。完全閉鎖すれば電子ピアノで音量を絞ったかのようなかわいらしいくバランスの良い音となる。中高音は前屋根と前框の隙間をピアノマスクの開度に応じて調節する。
全閉状態で脚のインシュレーターがきちんと働いていれば、夜間の練習も可能である。グランドはアクションの整調が万全であればアップライトよりピアニッシモが効くはずである。
グランドにも消音システムを積んだ既製品があるが、内部はタッチへの影響を減らすためレットオフ調節が可変式だったり、アップライトでは1系統のセンサーがハンマー系を含め二系統あったりで、相当複雑である。調律にも相当な技術が要求される。
それでも消音時のタッチ、音質は生ピアノと比べ不満足なものである。個人的には、タッチ、音質ともに満足できる山本式ピアノマスクとある程度の部屋の防音の組み合わせるのがが最良であると考えている。
基本的にピアノマスクは、板の切り出しが一番の山場で、あとは日曜大工とは呼べないほど簡単な作業だ。細工が得意な方は、開閉をリモコンにしたり、オイルダンパーを着けたり工夫するのも面白いだろう。費用対効果が抜群なので、あなたも健康な汗を流して製作してみてはどうだろうか。
参考 (自作ピアノマスクシリーズ)
□山本式ピアノマスク設計目標のナゾ
□山本式ピアノマスク製作のナゾ
□山本式ピアノマスクver.2のナゾ
今回は防音についてのお話である。郊外の一軒家ならともかく、現在の住宅事情では生ピアノを弾くには何らかの防音処置が必要である。特に集合住宅では深刻な問題だ。
今時、生ピアノに何の対策もせず住宅密集地で気持ち良く弾けば100%苦情が来るだろう。もちろん部屋全体を防音すれば良いが、最低100万コースだし、音楽以外には使えないような窓の少ない圧迫感のある部屋になる。部屋の中に防音室を置く方法もあるが、内外とも狭くなり窒息しそうである。
かといって、最近の電脳技術を使った消音ピアノはシリアスなユーザーには音質、タッチとも我慢ができない。いずれにせよ音量を少し小さく、しかし音質やタッチに影響が少ない方法が望ましいが、そんな旨い方法があるのか?。
防音には、1)空気を介した音響伝播、2)足からの振動伝播を抑える対策が必要である。通常の戸建ての場合は1)が、そして集合住宅では2)が問題になる。
振動伝播には、ピアノの足にインシュレーターを使うのが一般的だが、残念なことに市販のものは値段の割に効果が低い。振動伝播は主に低い周波数が問題になるため、それを吸収するためにはコンプライアンス(柔らかさ)とストローク(潰れ代)、が必要なのだが、市販品にはこの2点が不足している。
お勧めなのは、エアコン室外機の下に弾く防振ゴム(@500円)を受け皿の下に引く方法である。これで不足する場合は防振ゴムもしくは高密度ロックウール材の上にコンパネ(@1500円)を引き、表面にニードルパンチを貼り(@1500円)その上に防振ゴムと受け皿を置けば十分であろう。
さて戸建てで問題になるのは音響伝播だ、最近は建築基準法によってかなりの断熱材が入っているので、音の漏れの大半は窓からである。しかし通常のアルミサッシでは外1mの距離で30dB程度の遮音性しかない。防音カーテンは、1枚で2-3dBがやっとである。
そこでおすすめしたいのは、プラマードなどの内装側に着ける二重窓だ。価格も通常の窓であれば@25000円、テラスであっても@50000円程度である。これにカーテンを2重にすることで、45dB程度の遮音となる。
これで小型アップライトを昼間弾く分には問題は無いが、それより大きなピアノや夜間には不足である。もちろん部屋全体の遮音を50dB以上(D-50)以上にする方法はあるが、金額をかけても測定してみると予定の性能が出ないことが多い。
それは、エアコンや換気扇の開口部、屋根裏、床下など一カ所でも弱い所があると性能が出ないのである。従って、通常の戸建ての場合は二重窓以上の工事より、ピアノ自体の出力を10-15dB下げる方が費用対効果的にも賢い。
しかし、10-15dBも音量を下げると聴取上不足するのでは無いか心配になるだろう。大屋根を開けると音圧はベビーグランドでも100dBを越える。幸い、人間の聴力は80dBを越えるとどんどん鈍くなる。というか、苦痛の領域に入る。
人体には、大きな音に対して鼓膜の動きを制限する鼓膜張筋と呼ばれる小さな筋肉がある。また音の信号を電気に変える内耳には脳幹のオリーブ核からゲインを調節する信号が降りて来ている。もちろん、脳の中でもゲインを調節するシカケがある。
ちょうどラジオのAGC(Auto Gain control)のように、80dBを越えると人間の知覚はどんどん鈍くなり飽和するので、その領域で10-15dB音量を下げるとかえって音の大小の識別は向上し、絶対的な音量が下がった事は意識されなくなる。
そして10-15dBの音量の低下は家の外ではトータルでD-55〜60相当となり、大屋根を開けない限り夜間でも練習が可能になる。従って10-15dBの対策が当面の目標なのだ。
アップライトの場合、10-15dBの音量低下はさほど難しくない。通常はピアノの後ろを 10cmほど開け、そこにピアノ側からスポンジ(マットレス@3000円)とコンパネ(@1600円x2)の順で挟めば良い。見場のよい市販品も2万円以下と安価である。
アップライトでは前面の鍵盤より上からは中高音が出るが、前面の鍵盤下および裏からは中低音が出る。従って後ろを塞ぐと低音が不足するが、昼間はコンパネを壁側に倒して隙間を開けてやると良い。
アップライトでは中低音がユーザーには届きにくく、キャンキャンうるさい傾向がある。これには鍵盤下の前板を少し前方に倒すと良い。通常金属か木製のストッパーで固定されているので、そのネジ止めを手前に数cmずらして数ミリの隙間をあけてやるだけで、中低音が出てきて気持ちがいいものである。
問題はグランドで、上方に中高音が出て、下方に中低音が出る。従って大屋根、小屋根(鍵盤側の屋根)を閉じてやればかなり中高音は抑えられるし、小屋根のフタにゴムをはさんで数cm隙間を空けると、演奏者に中高音が聞こえて具合が良い。
しかし、ピアノの下からは盛大な中低音が常に出ているので、音質のバランスが良くない。そこで、ピアノの底を可変式に塞いで下からの中低音を加減できれば良いことになる。
webmasterの実家には長いあいだグランドがあり、ピアノの底に厚手の毛布を画鋲で張っていた。これに小屋根の調節を加えておそらく8dB程度のバランス良い効果があった。
同様に、Webmasterのグランドの底にもカーペットを画鋲で張り、音量、バランスとも丁度良い具合だったが、時にはグランドの強大音を全身に浴びたいこともある。その度に画鋲をはずすのも面倒で、できれば防音効果を可変式にしたかったのである。
そのあたりをターゲットにした製品が、カワイのピアノマスクである。ピアノマスクは、
1)ピアノの底を塞ぐ板と可変式のギャラリー(よろい戸)
2)ピアノの譜面台の下を塞ぐ板(一部可変式)
3)ピアノの大屋根と側板の間を防ぐゴム
からなる。実際には2)の板は、前屋根(鍵盤側のフタ)を閉じてその上に譜面台を置けば不要である。また3)は単なるゴムであり、ピアノに布カバーをかけてあれば有っても無くてもさほど変わらない。従ってキモは1)の部分だ
Webmasterも、過去数台のカワイRX-1とRX-2のピアノマスク付きを試弾したが、印象が良くなかった。それは、
1)底板のギャラリーの開口面積が狭く、全開にしても音が籠り、ピアノマスクの無いピアノより音量と音質が劣る。これは、ギャラリーが低音側に限られているため、中高音域の響板が支柱によりほぼ閉鎖されてしまっているからだ。これは重大な設計ミスであると言わざるを得ない。
2)ピアノマスクの板をピアノの側板にネジ止めしているため、ピアノマスクの板自体が中低音で鳴っている。
からである。このため、思ったほどの遮音効果が上がっていない(10dB以下)上に、低中高音のバランスが良くないのが気になった。何より全解放にしてもギャラリー開口面積が狭い(55%程度)ため中高音部がつねに塞がれて周波数特性が変わってしまい、爽快感が無いのである。
高音については譜面代の板が可変式で調節できうるが、ピアノ全体からの低音に対して重要な中音が抜けた感じで、なんとなく鼻が詰まったようなのである。
そもそも、このピアノマスクはカワイ専用なので、我が家のヤマハには付かない。そこで、これら欠点を克服する山本式ピアノマスクを作成したのである。その設計目標は、
1)ピアノの底面を100%遮蔽から完全解放までの可変式とする。
2)遮音板は筐体に最小限のポイントで結合し、筐体の振動が伝わらないようにする。
4)ピアノの音質に関係する側板にはいっさい加工しない。
3)全ての可変領域で、低中高音がバランス良く出るようにする。
4)ピアノの底面からの音は100%演奏者に向かうようにする。
5)全ての製作コストは5000円以下とする。
と、かなり欲張りなのだが、。現在のところほぼ目標は達成しており、何より100%解放できることはカワイ製より圧倒的に優れていると思う。時にはすべてを解放した強大音を浴びるのも気持ちいいし、ピアノの力を100%発揮させるのもピアノにとっても幸せだろう。
そこで、今回は製作途中の画像一枚でしばらく妄想を膨らませていただき、次回にその製作の詳細をお伝えすることとしたい。
参考 (自作ピアノマスクシリーズ)
□山本式ピアノマスク設計目標のナゾ
□山本式ピアノマスク製作のナゾ
□山本式ピアノマスクver.2のナゾ
「コキッ」
我が家の旧車を車庫に入れていると、足下からいやな音がした。過去Webmasterが乗っていたヤワな車体のクルマでは据え切りでコキコキ鳴るクルマがあったが、このクルマでは初めての経験である。
早速右車輪をはずしてハブを揺すってみると、微かにガタがある。その音源はどうやら右タイロッド内側からのようだ。これは意外な故障である。
通常タイロッドでガタが出るのは、風雨や飛び石に晒されてブーツが痛み易い外側ジョイントである。しかし外側は以前にゴムブーツに亀裂を発見し、純正部品からゴムブーツをはずして交換した。ジョイントを交換しなかったのは、素手で動きにくいほどしっかししていたからである。というよりは、アライメント調整が面倒だからだ。
しかして今回は内側である。部位としてとしはエキゾーストに近いので熱でブーツが劣化し、グリースが漏れて不良になった、と予想して部品を調達した。
非常に有り難い時代で、なんと4日で社外製部品(Meyle)が手に入った。Meyleはまずまずの品質で、純正の欠陥が修正されていることすらある。こんなに簡単かつ安価に部品が手に入るということは、まだまだこのクルマとの付き合いが続きそうである。さあ作業だ。
とはいっても、タイロッドをはずすのは野蛮な作業なので、ジャッキに束金具、タイヤ、車止めと落下に供えて開始である。ガレージジャッキもあるが、重いので束金具が便利である。ネジをはずした後にCRC5-56をかけ、コーヒーを飲んで1時間じっと我慢した。そのせいか、両側ともかわいい音をたててタイロッドははずれた。
はずしたタイロッドをみると、前回ブーツを交換した外側はタイトさを保っているが、内側にはガタがある。ガタの出方が変化するところをみると、内部の部品が欠けているようだ。
さて、問題は交換するタイロッドの長さを元のタイロッドとミリ以下の精度で合わせることだ。真の有効長はジョイントの中心同志なので知ることができないが、底板の中心にケガキを入れ、おそらくぴったりであろうところまで追い込んだ。
しかし、webmasterも人の子であり、最近は自分が信用できない年齢でもある。そこで、ターンバックルを1回転回して長めに設定した。これでトーインが強くなるので、チョンボしてもトーアウトにならず安全である。
最近は忘れっぽいWebmasterなので、トルクレンチ、ハンドレンチ、ペイントと何度も確認して試験走向である。
すると、直進性は良好だが、ステアリングが右に約15度傾いたところで安定した。ということは、右トーインが強く、左右のトーインが同じになるようにステアリングが右に15度に傾いたのであろう。
しかし、アライメントを単純に考えると反対の効果になることがある。再度老化した頭を何度も絞らなければいけない。
ステアリングが右15度ということは、ステアリングを正中にしたときに、右のトーインがステアリングギアボックスアームの角度として15度÷ステアリング減速比(約15)、つまり約1度強いことになる。
1度の角度は小さな値なので、ラジアン換算でtanα=α(ここでα=π * 1/180)が成り立つ。それにアーム長約15cmをかけると約2.6mmと計算された。やはりターンバックル一回転分長すぎたのである。
というわけで、ターンバックルとネジに印をつけ、一回転回したところで仮固定して試験走向すると、ステアリングが正中で安定した。しかし死にたくないので、再再度トルクを確認して締め、ペイントを塗った。なにせ自分が信用できない年齢なのである。
というわけで、今回はいい教訓になった。つまり、タイロッドは片方ずつ交換するのが良いということである。手間がかかるが、その度に直進性を確認すればアライメントは元と同じとなる。しかしリフトが無いと3度タイヤをはずすことになり、炎天下の作業でwebmasterの体重は約300g減り、体の軽量化も同時に達成され何よりである。
ただWebmasterはしつこい。通常めったに壊れない内側のジョイントがなぜ壊れたか、である。みるとゴムブーツは新品同様の輝きでクラックは無い。丁寧なことに、ジョイントには小さなヒートシールドが付いていて、最近のメルセデスにはみられない注意深さである。塗色もウグイス色で型番からも純正品(右側)である。
以前書いたが、メルセデスのタイロッドは左右で右ネジ、左ネジが区別され、右側がウグイス色に塗られている。これは車が下部を擦ってタイロッドが回転しても左右ともターンバックルが締まる向きに回転してはずれない、という老婆心な設計だが、実際にはディーラー工場でもアフターマーケットでも、区別していない事が多々あり、通常問題は無いとヤナセのメカニックが言っていた。
そして、ゴムブーツをめくるとグリースも十分入っているが、指でこすりつけるとプラスティック(おそらくテフロン)のカケラが出てきた。まあ16年後に露呈した欠陥品と言うのも何だが、おそらく製作時から問題があったのだろう。この年代のクルマを持っている方は注意が必要かも知れない。というのは、このジョイントは全てのクラスのクルマで共通だからだ。
問題は、なぜジョイントが急に壊れたか、である。特に前輪をヒットした記憶も無い。実は同時に自動巻の時計も止まって修理を要した。心当たりとしては、Webmasterがピアノの練習に没頭し、クルマや時計をかまわなくなった時期と一致する。
というわけで、確証は無いが、クルマも時計もピアノに焼き餅を焼いて壊れたとしか考えられない。論理的で無いが、Webmasterはそう信じているのである。同僚も一笑に付したが、長く居着いた機械にはそれなりの念が固着するのであろう。(おそらく物理的にではなく、Webmasterの頭の中に、であろうが)
前回はアリコートの周波数軸の特性を調べた。その結果、アリコートは倍音成分だけでなくの広い周波数領域に影響を及ぼすことが解った。
しかし、周波数軸だけで音を語ることは不十分であり、時間軸、空間軸でも解析する必要がある。時間軸と周波数軸の関係はサウンドスペクトログラムで解析できる。空間軸については、以前SRSの解析に用いた左右信号のリサージュで位相関係を知ることができる。
というわけで、今回はホロビッツの最高音の”キシーン”がどういう成分で出来ているか?、である。
通常、高音域は弦が短く減衰が速いためにダンパー(消音器)が無い。そこで10秒間ほぼ一定の強さで連打してFFT解析を行った。基本周波数1586Hzと2倍、3倍、4倍、5倍のピークが認められるものの、決して全体のレベルは高く無い。一方、基本周波数より低い領域にもかなりの音が発生していることがわかる。
では、過渡特性を見てみよう。サンプリングは50ms毎である。
基本周波数とその倍音が観察されるが、倍音は基本周波数より速く減衰する。また、打鍵の瞬間には非常に広い周波数領域でレベルが上昇する。つまり、殆どの弦はダンパーで消音されているにもかかわらず、アタックの瞬間には鳴っているのだ。
これは駒、響板、そしてフレームを介して、または空間の音を介してピアノ全体が鳴るからである。
ただし、webmasterの耳には”キーン”とは聞こえるが、”キシーン”とは聞こえ難い。どうやら”キシーン”は豊かな倍音成分だけでは、そう聞こえないようなのである。ホロビッツの打鍵とwebmasterの打鍵はどこが違うのだろうか。
そこでハタと気付いたのは、ホロビッツがもっとも高い鍵盤を弾いている間はペダルを踏んでいる、という事である。ピアニストは音が濁らない限り、音を豊かにするためにペダルをできるだけ長く踏んでいるものである。
そこで、ペダルを踏んで全てのダンパーを上げたまま、打鍵したのが次の図である。
ちょっと不思議な図になった。まず、打鍵したキーにはダンパーが無いので、ペダルの有無は関係無いはずなのに、基本周波数、倍音とも持続が長くなっている。また打鍵したキーより低い周波数全体が非常に長く鳴っていることがわかる。
問題は、基本周波数と倍音が何故ペダルを踏まない場合より長く持続するか?である。高音の弦自体の振動は短いが、それが空間、そしてアリコートやフレームを介して、より低い周波数の弦にも倍音として乗ることでエネルギーが蓄えられ、それが再度空間とアリコートやフレームを介して高音の弦に乗り、あるいは倍音が低音弦からも直接音響として放出されると考えられる。
そして、確かにペダルを踏んでいると、”キシーン”と聞こえるのである。とすると、”シーン”の部分はピアノ全体が鳴った音と言うことになる。
とすれば、これはダンパーノイズに似たものだろうか。ダンパーノイズとは、ペダルを踏んでダンパーが上がる時にピアノ全体の弦が”シュワーン”となる音である。最近の電子ピアノはサンプリングしたダンパーノイズを発生する製品があるが、88種の音程の200本以上の弦から時空間的に広がった音をエミュレートは不可能である。
さっそくダンパーノイズを計測したものが次の図である。
ピアノ全体が鳴っており、なかなか減衰しないことがわかる。しかし、高い周波数領域まで潤沢なエネルギーを持つわけではなく、これは高音のキーからエネルギーを補給する必要がある。しかし、一端打鍵されれば、そのエネルギーは打鍵された弦だけではなく、ピアノ全体に蓄えられ、長く鳴るのである。
というわけで、アリコートによって強力となった高音成分は、アリコートとフレームを介してピアノ全体を鳴らし、またそのエネルギーが長く保たれることによって、”キシーン”と鳴って遠投力を持つと考えられる。
世の中の音楽作品には、ピアノを楽器としてでは無く共鳴器として使うものがある。ピアノの大屋根を開いてピアノのペダルを踏んでおくと、その前の歌ったヒトの音声が強く長く響く。
同様に、アリコートには単に倍音成分を豊かにするだけでなく、フレーム経由でピアノ全体を鳴らす働きも大きいことがわかった。しかし、その影響は大きいだけに、調節には十分な配慮が必要である。
というわけで、アリコートは非常に影響力の大きいテクノロジーなのであるが、それを使いこなすにはノウハウが必要なのである。また、その効果が逆目に出ることもある。
幸いなことは、ユーザーの好みでアリコートの効きは簡単に調節出来ることだ。あるいは、多くのピアノで主にフォアストリング部にユーザーが気付かない間に調律師が密かにフェルトを施していることもあるかも知れない。
今回は、アリコートの魔力について解析したい。思えば本ページではいろいろな解析を行ってきたが、ピアノに関しては単なるユーザー(ピアノ馬鹿)でしかなかった。
写真は典型的なSteinway式アリコートを持つヤマハの高音域である。弦は一番上のヒッチに環状にひっかけられており、その下にジグザクと走っている金属製の後側アリコートの表面に接触している。
弦は響板に固定され上面が黒く塗られた駒に接触し、次に中央の金色フレーム裏にあるカポダストバーと呼ぶ突出を支点とし、さらにその下のフレームに設けらたジグザク状の前側アリコートに接触したあと、下のチューニングピンに巻き付けられている。
基本的な音程は、駒とカポダストバーの間の弦の長さと張り具合で決まり、駒の振動は響板に伝えられ音となる。振動の一部はカポダストバーからフレームを介して他の弦や筐体にも伝わり、音として放射される。
この写真で駒よりヒッチ側のバックストリングと呼ばれる領域と、カポダストバーよりチューニングピン側のフォアストリングと呼ばれる領域の振動はフェルトでダンプされるのがSteinway以外では一般的だった。
アリコートとは、駒と後側アリコートの間、またカポダストバーと前側アリコートの間の距離を、弦の基本振動周波数の倍音に共鳴するように設定することで、通常はダンプされる倍音をフレームに効率よく伝えて高音のレベルを稼ぐシカケである。
前後アリコートともジグザクと走っているのは、それぞれの音程に対して最適な倍音を発生するための至適距離が音程によって異なるためである。
ヤマハでは、後側アリコートが中音、次高音、高音域に、また前側アリコートが次高音、高音域に設定されるようになった。中音の前側はアグラフと呼ぶ穴の開いた金具が支点となっている。
アグラフは弦の支点が明確なためにフォアストリングに振動を伝えにくく、クリアな音質になる一方倍音成分が少な目となる。古いBechsteinは総アグラフであった。しかしフレームのアグラフ支持部が突出するためにハンマー周りのスペースが厳しく、納まるハンマーが小さめになり、また打弦点も奥目となるので弦長も十分にとれない。
一方、カポダストバーは弦を上側から支持するため、ハンマー周りの空間が自由となり、大きめのハンマー、手前の打弦点、長目の弦となるので、最近は総アグラフのグランドは無い。一方、アップライトではハンマー周りに十分な空間があり、またアグラフの手前から打弦するので総アグラフのデメリットが少ないため依然として良く使われている。
さて、アリコート自体は100年もの歴史を持つ技術ではあるが、日本製品での採用は比較的新しいのである。これが実際にはどう聞こえるかは、ホロビッツの弾くショパンのエチュード(Op. 25 No. 12)が解りやすいだろう。
一番高い音が”キシーン”と長く大きく響くのが良く解るだろうか。これがアリコートの波動砲のような威力だ。ホロビッツには常に最高のSteinwayと最高の調律師が同伴しており、ホロビッツとSteinwayの関係は「萩に猪」「紅葉に鹿」「牡丹に蝶」という感じである。特定のピアノを持ち歩くことを利して、その個体の雑音込みで聞かせるのである。
しかし、遠投力が要求される大ホールと違ってスタジオ録音では、高音の響きは過剰である。それにしても、ホロビッツはミスタッチが少なく、打鍵数の多い曲ながら明確に最高音を響かせる技術には驚かされる。
さてアリコートの発生する倍音はどのようなもだろうか。前述のように、フォアストリングに関して中音域はアグラフ、次高音域はアリコートとなっているので、その境界の2音をフォアストリング部分でコンデンサーマイクで記録しFFTをかけたものが図である。同一強度となるように連打し、10秒間の平均を藤色として表示した。解析には周波数分解能の高い、efu氏のWindowsSpectrumを用いた。
上段は室内と録音システムの闇騒音で、電源の60Hzとその高調波以外は-85dB以下なので解析に耐えると思われる。
中段はアリコートの無い弦中央付近で、基本波561Hzに対し2倍、3倍は約-10dB、それより上は等比級数的に下降しているのが解る。
下段はフォアストリングのアリコート付近からで、基本周波数597Hzと2倍、3倍、4倍がほぼ同レベルで並んでいる。それより上でも整数次の倍音がいろいろ多数録音されている。また、ピーク以外の中高音成分も平均して4dBほど上昇し、またピークの幅も広がっている。俗に、アリコートは4度、5度の音を発生する、と言われているがFFT上は整数次のピークが支配的のようである。
このように、単一の鍵盤のヒットでもピアノでは非常に雑多な音が発生するのである。偶数次の倍音は主音(トニカ)のオクターブ音なのでヒトの感受性は意外に鈍く、わずかに音に厚み深みを感じるだけである。奇数次、特に3倍はドミナント(完全5度、周波数比1.5)のオクターブ音であり、音の艶、緊張感を感じることになる。それ以外の倍音については、それを広がりや色彩感と感じる人も居れば、雑音と感じるヒトも居り、好みが分かれるところだ。
先のホロビッツの演奏の”キシーン”と聞こえる高音には、いろいろな付帯音が含まれており、大ホールでは、雑多な付帯音が音の広がりとして感じられ、また豊かな倍音は遠くまで響くことになる。
次にバックストリングについて、中音域の後側アリコートの無い部分と有る部分を比較した。その境界をスムーズにするためにアリコート開始部はフェルトでダンプされており、その部をさけるために3度離れた音を解析している。
上段は低音弦のアリコートが無い部分からの録音である。もともと弦が長い低音域は倍音に富むために、アリコートが無くても基本波312Hzから6倍音までほぼ同じレベルで並んでいることがわかる。
一方下段のアリコートがある部分からの録音では、何と基本波367Hzより2倍音の方がレベルが高くなっている。フォアストリングの音は演奏者の耳に届きやすいが、エネルギー的にはバックストリングからの音の方が強いのかも知れない。通常低音が鳴っていると感じても、ほとんどの場合は基本波では無く低次の高調波を聴いている。
そのかわり4倍、5倍、6倍音はいったんレベルがさがり、7倍音でほぼアリコート無しと同じレベルとなるが、それより高い音ではむしろレベルが下がっている。
注目すべきは、それぞれの倍音のピークの幅が広くなっていることである。つまり、アリコートは単に倍音だけでなく、ピーク前後の周波数にも大きく影響しているのである。これは弦の端は固く曲がりにくいため、見かけの弦の振動している部分が短くなり、それが高次の高調波ではさらに短くなる、インハーモニシティーという現象である。
このため、例えば鍵盤の中音付近で演奏すると、その高調波の高音の周波数は整数倍より少し高くなる。このとき、高音側を正確に平均律で調律すると、、その音と中低域の音の整数倍+αの音が混ざって不快なうなりを生じる。このため、高音側の調律はすこしずつ周波数を高めに(ストレッチ)するのが普通である。
同様に、低域の音の整数倍の高調波+αと中音の音が混じるとうなりを生じる。そのためには、低域は平均律より少し低めに調律する。インハーモニシティーは弦が短いほど大きくなるので、小さなピアノほどストレッチを大きく、大きなピアノほどストレッチを小さくするが、あえてうなりによる色彩感を出すためにストレッチを少なめにする場合もある。
これまた幅の広いピークを音の広がり、ととるか、あるいは雑音ととるかは個人の感性によって異なり、好みが出てもおかしく無い。
ということで、やはりアリコートは両刃の剣であり、Steinwayはちょうど良いところを100年飼い慣らしてきた、と言うべきであろう。一方、それ以外のメーカーは、アグラフ系のクリアな音を重視してきたが、遠投力のあるアリコートの魔力に引き寄せられ、現在格闘中という感じである。
グランドピアノはフルコンサートでは278cmもの長さになる。全長が長いほど低音弦は重く強力な音を放つが、高音の弦の長さは、フルコンサートもベビーグランドもその差は小さい。
従って、大ホールで不足気味の高音域をアリコートの威力で補うのは賢い考えではある。しかし、個人の住宅や小ホールでは、アリコートの効果は過剰だと考える。
幸いなことに、アリコートの効果をフェルトで減らすことは簡単である。一般には、アグラフの中音部とアリコートの次高音部の境界の音質差を埋めるために、境界よりアリコート側の数音のフォアストリングをフェルトでダンプ、また次高音部のダンパー有り無し境界の音質差を埋めるために、ダンパーの無し側の数音のフォアストリングをフェルトでダンプすることが行われている。
従って、耳鳴りするほど高音に辟易している向きや、古いBechsteinやBoesendorferに近い音を望む向きは、調律師にフェルトのダンプをリクエストするのも一つの方法である。
なお、今回は周波数軸の解析だったが、次回は周波数軸と時間軸の両方からみた解析を行ってみたい。そうすれば、ホロビッツの”キシーン”という音の秘密がさらに明らかになるだろう。
最近ピアノ付いているwebmasterであるが、ピアノの音質について深く考えたことはなかった。というのは、webmasterの周辺の興味は技術とタッチが第一で、音質は二の次だからである。
昔から音大生の練習台はグランドの3号(G3,C3,KG3など)である。これは3号を弾いておればフルコンを弾いても大きな違和感を感じないから、とされている。グランドには1号2号、ベビーと称する150cm以下の物もあるが、小さくなるとタッチはグランドであっても低音の音質(ズーンでなくボワーン)と音量に不満がある。
といっても、住宅事情の厳しい日本では、小さなグランドやアップライトで我慢しているプロ、セミプロも多い。タッチには問題あるアップライトだが、いくつか要件を犠牲にすれば(ソフトペダルが効かない、消音システムが組めないなど)調律によってグランドの80%程度まで連打性を高めることはできる。
ただ、よほどひどいピアノでない限り、”上手になるまではピアノにケチをつける前に練習をしなさい”、というのが一般的である。そもそもピアノは会場側が用意するので、少々調子の悪いピアノでも弾きこなせるように練習しなさい、と言われるものである。自前で持ち歩くバイオリンとは事情が違うのである。
webmasterが実家で弾いてきたのはヤマハとカワイのアップライトとC3だが、カワイの鍵盤がやたら重かったこと、C3の高音がうるさかった(毛布をかけてあった)事を覚えている。
そもそも音質に興味が湧いたのは最近なってからである。そこで、中国製を含め、多くのピアノの音質をチェックしたが、今回は有名どころの印象を書き留めておきたい。なお、タッチの差は調律である程度変わるので、ここではあまり重視していない。
東京の某所で弾き比べたのは、SteinwayのA-188(188cm、315kg、987万)、BechsteinのM/P192(192cm、362kg,950万)、Boesendorferのmodel185(185cm、330kg、920万)である。比較対象として、ヤマハS4B(191cm、335kg、409万)、ヤマハのC3Artistic Edition(186cm、320kg、205万)ヤマハの素C3(186cm、320kg、189万)、カワイRX-3(186cm、325kg、189万)である。C3とRX3以外は隣り合って置いてあった。
まずC3Aは、素のC3(189万)より上等な響板やピアノ線を持つ限定品だが、記憶にある素のC3との音質差は良く解らなかった。カタログスペック的には買い得があるが、在庫僅少とのことである。ヤマハの特徴として中高音のアリコートが強力に響く一方、中低音の木管楽器的な音がサイズの割に不足気味である。
S4BはC3Aより作りのディテールが高級で、シーズニングと整調、整音も入念とされているが、これまた目をつぶると若干スケールの大きく感じるものの、C3Aとの音質差はよく解らない。ターゲットは輸入ピアノだが、値段がC3やC5の倍であること、比較すべきC4なる製品が欠番であることから、判断に苦しむ。実勢価格は定価よりかなり弱含みである。
投資効率からは、C3やC5の木目の方が有り難みがあるかも知れない。音質にはツキ板や塗装の影響以上に見た目の影響も大きい(黒より木目のほうがやさしい音と感じる)からである。個人的には素のCシリーズの国内価格が全般的に割安であり、中国製ピアノと比べても高くないと思う。日本人であることに感謝すべきである。
次はSteinwayであるが、世界中のメーカーが影響を受けてきた中高音アリコート(デュプレックススケール)のキラキラ感は意外や大人しく、一方中低音はサイズの割に前に出る感じだ。
Steinwayも米国製、ドイツ製、製造年月での品質差、音質差が良く語られているが、音質以前にブランドイメージが強烈で、自分の判断基準がこのピアノに引っ張られてしまうのである。ベンツと違って維持費もガソリンも保険代もかからないから、軽自動車にのって一点豪華のSteinwayを買うのもアリか?、と思わせるものがある。
だが、店頭で栄えるキラキラ感も、自宅の狭い部屋で大屋根を開けるとしたら過剰だろう。ヤマハのCシリーズも同様で、大屋根を閉じ、前屋根の鍵のところに物をはさんで5cmほど開けた状態(譜面台は前屋根の上に置く)でちょうど良いと感じる位である。
次にBechsteinだが、目をつぶると予想以上にSteinwayに近い。最近のモデルとは初対面だが、一般に言われている印象とはずいぶん違う。見ると、ピン板を覆う金属フレームの形状、前後アリコートの形状、カポダストバー、ケースの堅い印象、裏の放射状の支柱などがSteinwayそっくりである。総アグラフのころの音とは明らかに変わっている。店員に印象を告げると、”みなさんそうおっしゃいます”と言う。
というのは、ヤマハ、カワイのGシリーズ、KGシリーズともBechsteinのコピーから始まり60年代頃からSteinwayの影響が強くなってきた。中でもカワイやディアパソンはヤマハよりBechsteinの影響が強かった。偶然にもwebmasterの電子ピアノはSteinwayとBechsteinの音源をサンリングしているがその音質差は大きく、昼はSteinwayモード、夜はBechsteinモードにして弾いていたものである。
しかし目の前にあるBechsteinは目をつぶると、Steinway、いやヤマハに近い感じなのである。音づくりポリシーが変わったのか、製造法が変わったのか、あるいは経営ポリシーが変わったのか、真相はわからないが、それほどSteinwayの影響力は強いのだろうか。
最後にBoesendorferだが、他のどのピアノとも違う。高音は過不足無く落ち着いており、中音はオーボエの音のようにツヤがある。低音は音量こそ大きくないが濁りがない。中身をみると、ピン板は金属フレームに覆われておらず露出している古風な作りだ。Bechsteinの変貌に驚いた後に少しほっとしたのである。
弦は総一本張りなのは旧来と同じだが、現品にはバックストリングにフェルトを介した穏やかな出っ張りがあり、アリコート的な効果も持たせてあるところが新しい。カポダストバーもフレームとは別体のネジ留めで、これ経由で穏やかにフレームや他の弦も響かせるシカケである。裏の支柱は井の字状に組まれた強固なものである一方、側板をたいてみるとsteinwayより柔らかい。
その音質には完全に参ってしまった。音が単にシャリシャリしていないだけでなく、中低音はチェロやコントラバスの雰囲気すらある。店員にそう告げると、”解っていただいてうれしいです。”と嬉しそうである。その店がヤマハの代理店で、Boesendoferにヤマハの資本が入ったことを割り引かなければいけないが、一般住宅や小ホールでは最もバランス良く響くと思われる。
店員によれば、ヤマハ傘下になってからは予想以上に数が出ているとのこと。ただし湿度の影響がSteinwayより大きいので、オーナーには湿度の管理をお願いしている、とのことである。
そうそう、RX3を忘れていた。RX3は前後のアリコートが装備されている割に高音は大人しい。一方、心地よい木管楽器のような中低音を期待するとヤマハ同様いま一つである。ご自慢のカーボンファイバー入り樹脂製アクションは連打性が優れるらしいが、鍵盤が全体的に重く動きも渋い。
これがモデルの傾向なのか、あるいは単なる個体差か解らないので、近日中にSKシリーズやディアパソン、ボストンを含めて、もう一度試してみたい。見場としてもディテールの高級感も不足していて、例えば同クラスのC3で寄木造りになっているキーベッドが合板であるとか、古くはヤマハより重厚な作りだったカワイのイメージは完全になく魅力に乏しい。
(追加:新型RX3、SK3、ボストン178、ディアパソン164を試す機会があった。新型RX3は見場(飾り)が良くなりタッチも軽くなった印象だが、音質は変わっておらず引力に乏しい。樹脂製アクションは湿度の影響を受けるので、タッチの差は湿度のせいかも知れない。ボストンはSteinway設計のカワイ製だが、予想よりアリコートのキラキラ感は穏やかで中低音が重厚な感じだ。ディアパソンは音がきれいで狭い室内に置くのには一番心地よい感じだ。SK3はRX3より値段差以上に繊細かつ華麗な印象で、価格的にはS4Bより大バーゲンと思われた。どれも印象が過去よりいいのは、調律の行き届いた直営店の個体だったからかも知れない。)
全般的には、世界的にSteinwayの影響力が強まっていると感じられる。アリコートを持つピアノは、そうで無いピアノと比べ店頭効果が非常に強いのである。Steinwayのフレーム形状、アリコート、強靱な支柱と側板、アクションなどは100年前から殆ど変わっていないのだが、今頃になって強烈なグローバライゼーションとして世界を席巻しているのである。
確かに、アリコートが生み出すキラキラした中高音は遠投力が強く(遠音が効く)、大きいホールで真価を発するだろう。ピアノコンサートがいち早く大衆化した米国で、不足しがちな高音を補うためにアリコートが武器となったことは理解できるが、一般住宅や小ホールではその効果は過剰だと思っている。
ヒマがあればピアノを練習しているwebmasterであるが、シューベルト(MP3)がやっと形になってきた所である。次なるレパートリーであるが、適当なものが無い。いや、弾きたい曲は山のようにあるが、難曲にかかわると、老い先短いwebmasterの時空間的リソースを食うので、なるべく簡単で演奏効果の高い曲を選択したいところだ。
とすると、サティ、ドビュッシー(video MP4)あたりが相場である。いくつか着手したが、無調、ポリリズムに近づく一方、古典的な教会旋律が復活しているなど、難解な現代音楽の一歩手前で踏みとどまった最後の美しい音楽とも言える。
しかし、家族には不評で、小節の頭に強拍が無い音楽には動悸や胸焼けがする、と言う。演奏がヘタなこともあるが、当時のドビュッシーが受けた艱難辛苦は想像に難くない。
さて、webmasterは日中は生ピアノ、夜間や譜面読みは古いコルグの電子ピアノ(C5000)を使っている。電子ピアノは1989年に購入したが、実家のC3に近いタッチと音質のもの(落差は非常に大きいが)を選んだら、たまたまコルグ製だった。
しかし15年も使うと、いくつかフォルテッシモにならないキーが出てきた。また購入時から、かすかにノイズが聞こえており、ヘッドホンでは気になる。また、中央付近のキーのいくつかは戻りが悪くなった。これらを一挙に解決するために修理である。
全てのネジを取り去り、上蓋を開き、キーボードを取り去ったところである。左からスピーカー、電源トランス、電源およびパワーアンプ、基板で、緑の基板には資本関係のあるYAMAHAのロゴが記されている。茶色の基板はCPUとメモリーなどである。
配線は、100Vラインと信号線が直接束ねられており(中央黄色)、これが電源ノイズの原因であろう。パワーアンプの電源はノイズを避けるために大きいトランスを使ったシリーズ型だが、茶色の基板には別のスイッチング電源が乗っており、ここからもパルス性のノイズを引いているようだ。
基板を解析すると、緑色基板と茶色基板は機能が重複しているようである。どちらもCPUとかなりの容量のメモリーを持っている。電線の取り回しと別系統の電源も不自然である。
さらに解析すると、茶色基板は緑色基板の機能をオーバーライドしていることが解ってきた。どうやらこの電子ピアノは緑色基板だけで(クラビノーバとして)成立するようだが、茶色基板のコルグ独自の音源(SteinweayとBechsteinのサンプリング)がそれをオーバーライドする設計のようだ。
ということは、茶色の基板をはずせば、ヤマハのフルコン(CF-III)の音が聞けるのか?、とも考えたが、ボタン類の制御が異なるし、CFの音を聞きたくも無いので、手を入れなかった。キーボードもヤマハと共通だが、購入時には明らかにクラビノーバよりタッチが重目だった。
WebmasterはコルグのシンセサイザーMS-10(ミニモーグのコピー)を使っていたのでコルグにはなじみがあるが、シンセ屋としての音源のこだわりがこの電子ピアノに生きているようで、ヤマハも独自性を尊重したのだろう。
機能のオーバーライドを許容する設計はエレクトーンにも良く見られる。つまり、メイン基板は同じで、機能強化は補助基板を足していく設計である。電子楽器は通常の電化製品よりかなり長く使われるので、保守部品の種類を減らすための設計なのだろう。
楽器の世界では、ブランドが吸収されてもその特質が残されている場合が多い。カワイでは、ドイツ系の重厚な大橋ピアノの系譜を継ぐディアパソン、スタインウェイのきらびやかな音質を継ぐボストンのOEMが平行して生産されている。この電子ピアノも土台はヤマハだが、音源とタッチはコルグの味付けなのである。
ノイズの原因となる100Vの電線が長々と走っているのは、エキストラの茶色基板を栄養するためだが、取り回しに問題がある。そこで、写真のように交流配線をツイストし端子板上方を走らせて、信号ラインとわずかに距離を置いた。
キーボードだが、キーのタッチをどうやって音量に変換しているか、である。結論から言うと、接点は導電性ゴムを用いたもので、二つのスイッチのONになる時間差で音量を変えている。これだとスイッチの抵抗値が経年変化で不安定になっても時間差であれば音量が安定するしかけである。
今回は接点(基板の茶色の部分)を微細繊維の布で掃除することでトラブルは解決した。基板の接点が上を向いているので、ホコリによる接触不良が起きたのだろう。
渋いキーの原因は、摺動部のグリス切れとホコリによるものだった。キーの隙間を古はがきと掃除機で掃除し、キー前端にグリスを補給することで、ほぼ新品時のタッチに回復した。こんなに軽かったかな、と思うほどである。
生ピアノではすべての回転軸は金属とベアリングとしてのフェルトで作られていて、いったんアタリが付くとあまり消耗しない。しかし、電子ピアノではグリスが切れるので、設計寿命は10-15年程度なのだろう。
この写真にはアクションも写っている。このアクションは打鍵時に錘が下がり、それをバネで戻す過渡期の設計だが、、当時はコルグのタッチは圧倒的に優れていた。今はどこのメーカーも殆ど同じ構造で、打鍵時に錘がハネ上がり、重力で戻るようになっている。
メーカーによっては、グランドアクションのように、途中でエスケープがはずれる手答えが演出されるなど芸が細かくなっている。しかし生ピアノと違い、どんなにゆっくり押してもある程度の音が出てしまう。ダイナミックレンジは生ピアノには及ばないのである。
この機種は1種類の音源データで強弱時をまかなっているが、最近は何段階か強弱によって音源データを用意している。また、打鍵されていない弦の共鳴音や、ダンパーペダルを放したときの共鳴音なども使われている。
しかし、である。いろいろなシカケの割に音質はあまり向上していない。どうしてもスピーカーから鳴る音と、生ピアノのキャビネット全体から響く音は違うのである。
youtubeにアップされた圧縮動画でも、聞いた瞬間に生ピアノとの違いが解ってしまう。メーカーによっては、スピーカーによる筐体の振動をマイクで拾って背面の別のスピーカーを鳴らしているものがある。同じ原理で、筐体の共鳴が加わらないヘッドホンの音は非常にしょぼい。
最後にスピーカーにも少し手を入れた。スピーカーとグリルの間にパンチングメタルが挟んであり、その部分に隙間があった。スピーカーの裏と表からは逆位相の音が出るので、隙間があると低音をロスする。この部は木工用ボンドで塞ぐこととした。また放熱に問題が無いことを確かめて、スピーカー付近の隙間はテープで塞ぐこととした。
またスピーカー裏にはささやかなスポンジを挟んだ。この程度で劇的な音質向上は望めないが、不要な共鳴ピークのいくつかをダンプする効果がある。
というわけで、電子ピアノはタッチ、音ともかなり良くなった。特に、低音は”ビーン”と新品時以上に気持ちの良い音がするし、ヘッドホンでもノイズが感じられない。しかし生ピアノと比べてはいけないのだ。どうしても電子ピアノでは暴力的なフォルテッシモや、ささやくようなピアニッシモは出ないのである。
この電子ピアノは値段相応のメカニズムだと思う。世間にはグランドとは似つかない貧弱なアクションなのに100万円に達する電子ピアノ(R社)があり、webmasterにはどういう客が買うのか想像がつかない。新品ベビーグランドピアノは100万から、またサイレント機能やマスクのついた程度の良い中古のベビーグランドが90万ほどで手に入るからである。
アップライトであれば、さらに良質な中古が山のように存在する。ヤマハが過去100年間に生産した生ピアノは約600万台にも及ぶが、ピークの1980年には25万台生産しており、その前後の10年間で1/3近くを製産していた。品質のピークは大量生産よりやや前の1970年頃という意見が多い。
品質がピークのころの黒ピアノは、塗装をはがしてニスを塗るだけで、ツキ板を貼らなくても鑑賞に堪えるほどであったが、その後は合板やチップ材が多用されるようになった。そのため、1970年台の中古ピアノは海外でも人気がある。
そもそもアタリの付いていない新品ピアノのアクションは子供が弾くにはかなり渋く、調律も狂いやすい。ピアノが安定して弾き易くなるには数年かかるが、その前に弾かれなくなって仏壇と化したピアノが膨大な数に上るのである。
住宅事情のために、結婚しても新居に持っていくことができず、また修理や処分にも金がかかるお荷物となった中古品が大量に流通しているので、高い電子ピアノを買う意味は乏しいとwebmasterは考えている。調律も年に一度(\15000程度)で十分であり、湿度の安定した環境であれば2年毎でもかまわない。
これにサイレント機能を組み込んでも50万でおつりがくる。もちろん、筐体がチップ材、アクションがプラスティックの現行製品でよければ、サイレント機能付きアップライトが50万で手に入る。サイレントはタッチに影響がでるので悩ましい機能だが、電子ピアノよりはマシである
ピアノで問題なのは騒音だが、アップライトでもグランドでも裏(響板側)にカーペットを画鋲で貼るだけで半分近い音量にすることができる。また2万ほどでアップライトの裏に立てかける吸音材もある。足の下にはエアコン室外機に使う凸凹した防振ゴムをひく事で、階下に響く振動を減らすことができる。
裏側と足もとの防音対策の併用で、かわいそうなほど音量を下がるので、昼間であれば問題とならないであろう。夜間ではこれに弱音フェルトを併用すれば譜面読みくらいはできる。ただし音量が小さいと気分が乗らないので、アップライトの上の蓋をわずかに開けて(ゴム足を挟む)演奏者だけに音が聞こえるようにすると良い。
そもそもアップライトは演奏者には気持ちの良い音が聞こえにくいわりに、裏の方向ばかりウルサイという困った性質がある。アップライトによっては前板に音を出す窓を持つものもあるが、上蓋をわずかに開ける方が効果的である。要するに演奏者にだけ気持ちの良い音がフィードバックされれば良いので、後ろを塞いだ分だけ前に音を出したい所である
というわけで、生ピアノと比べてとっても寂しい電子ピアノの中身を見てしまうと、これに高いお金を払うのは疑問である。それより、程度の良い中古の生ピアノにしかるべき防音処理を施して使い倒すのが、地球温暖化防止の観点からもベターでは無いだろうか。そもそも生ピアノには電気も要らないのである。
”のだめ”の影響としてかなり時期ハズレではあるが、webmasterは最近はわりと熱心にピアノの練習をやっている。
Webmasterは”のだめ”なる漫画の存在を認知していた。テレビドラマをやっていることも知っていたが、見たいようで見たくない気分であった。それには理由がある。
Webmasterは地方で育った。音楽の多い環境で育ったせいか音感(音程)は良い方で、小学3年生のころにはかなりピアノが弾けるようになった。そもそもTOMOYAという名前も当地のバイオリニスト猪元乙矢(いのもとおとや)先生(故人)からいただいたもので、音楽関係の知り合いも多かった。しかし男の子なので外で遊びたい盛りでもあり、やさしいピアノの先生の言うことを聞かず、練習をサボることも多かった。
そこで、やさしかった堀内先生から、その地方では一番厳しい上村澄春先生のところに送致処分となった(というか、その先生は怖い先生だということは知っていた)。そこは”虎の穴”のような場所で、ピアノに対する適性が厳しく選別される場でもあった。
最初のレッスンのショックは未だに忘れることができない。そこの中学生の一人(高校生だったかも知れ無いがセーラー服を着ていた)はピアノ協奏曲(グリーグだったような気がする)を練習していた。レコードでは聴いていたが、目の前の学生が弾いているのはものすごいインパクトだった。
その年の発表会で、当地のジュニアオーケストラ(今はユースシンフォニーオーケストラという)と共演するために、ピアノが揺れる位の大きな音で、しかも実際の2割増し位の速度で弾いていたのである。2割増しというのは、オケのテンポ変動に余裕を持って合わせる技量を持たせる訓練だったようだが、ようするに、かつかつの技量ではピーコンは弾けないということなのだろう。
そもそもジュニアオーケストラはwebmasterの名前の由来の猪本乙矢先生と上村澄春先生が1964年に設立され、1966年に第1回定期演奏会を開いたもので、当時はジュニアオケとしては日本有数のレベルに達していた。というかジュニアオケ自体が日本中に片手ほども存在していなかったのだが。
そしてその教室の発表会は、当時の県内で最大の図書館ホールで行われ、ピアノは勿論フルコンであった。当時は県内に演奏に耐えるフルコンはそのホールと鶴屋デパートホールの2箇所にしかなかった。発表会のトリは、ジュニアオーケストラをバックに生徒がピアノコンチェルトを演奏するということで、県内の音楽関係者のほとんどが見に来るものであった。当時は現在のような様々なコンクールがなかったので、県のピアノ教育レベルはこの発表会を見れば知れるというもので、多数の花束が寄せられていたのを覚えている。
そう、この教室なら頑張れば中学生でもピーコンも夢では無いのだ。これは豊かになった現在の日本でもなかなか叶えられない夢ではなかろうか。もちろんオケに負けないように大音量でフルコンを弾かなくてはいけない。
当然、その教室の生徒は東京にたびたびレッスンに通い、G大や一流音大のピアノ科に進学していた。今も昔もそのような生徒は大勢いて、今もどこかで音楽をやっておられると思う。おそらく”のだめ”の設定はそのレベルの一人だったのだろう。
Webmasterより年下にはソナタを器用に弾いているとてもかわいい女の子がいた。どうもwebmsterより上手のようだった。その子は記憶に間違いがなければ、今は紅白に出ている石川さゆりなる歌手だと思う。
で、Webmasterはというと”のだめ”ほどでは無いが、数回聞いただけで音を拾うことができた。聴音は得意で、当時地方の音楽教師の研究会で絶対音感の実技を披露したことがあった。耳から入るものは、時に違う調で弾いてしまうこともあった。昔のレコードプレーヤーはピッチがあやしかったからである。しかし、指が届かない。どうやら自分の指が短いということにも遅ればせながら気付いたのだが、これはこの業界では結構致命的である。
もちろん、指が短いのは言い訳にはならない。というのは、もっと小さな女の子が、もみじの様な手でソナタをポロポロ弾くのである。そのレベルになるとペダルを使うことが許されているので、和音を一部落としたり、時間差をつけることで殆ど遜色なく弾くのである。要は適性プラス練習量が不足していたのである。
で、練習が足らないと怒られ、先生が奥でお茶を飲んでいる間、トリルやパッセージを30分間ほど放置プレイで弾かされていた。今思えば、先生も良く我慢してくれたものである。そういう訳で早くもピアノへの情熱は挫折しかけていた。
もちろん先生が悪いのではなく、ピーコンも夢で無い環境にいながら、才能と技能が及ばずうまく弾けない自分の情けなさがトラウマの本質なのである。先生の家の玄関まで行って、そのまま帰ったことが何度も有った。家に電話連絡があったようだが、本人のあまりの元気なさに親も怒らなかった。
ところで、楽譜を入れる袋はお気に入りのもので長く使っていた。実写版をみると、”のだめ”の袋はピアノの鍵盤の模様がついたものが登場する。今思えば袋から楽譜を出して練習し、終わったらしまうのも儀式なのかもしれない。このあたりも経験が無いと書けない脚本である。
友達にもピアノがうまい子がいたが、”ピアノ科は難しいから、作曲か、打楽器あたりなら潜り込めるらしい”とか、”どの科を選んでもピアノは副科で必須だからね”、とか話していた。上村澄春先生からも、ピアノはもういいところまで来ているけど指が小さいし、男はピアノでは食えないから、むしろG大作曲科をめざしたらどうか、と言われた。G大に入るには音楽だけでなく学問ができないとと言われたのである。
そもそも一流音大ピアノ科に行くには、小学4年まででソナタ、小学6年で名曲集難易度C、音大試験までにショパンのエチュード全曲を弾けなければいけない、と言われている。”のだめ”が一流音大に合格できたのは、おそらくショパンのエチュード4番を上手に弾いたからであろう。
そんなとき、別の知り合いの音楽の先生から、エレクトーンコンクールに出ないか、と頼まれた。当時はまだ地方にはエレクトーンを弾ける人間が少なかったのである。家にエレクトーンのE-2(回転式スピーカー付き)があり、ピアノも弾けるということで上村先生から推薦されて白羽の矢が当たったのだ。エレクトーンがあったのはピアノ教師だった母親が、今後ピアノは廃れるかも知れないとの思いから購入していたものだった。
コンクールが間近なので、その先生(実はコンクールの審査員長)が特訓をつけてくれた。要するにサクラである。というか、他の全ての審査員も家族の知り合いであった。もっとも電子楽器は面白く、ピアノからの逃避を正当化するためかサルのように練習したおかげで、足の鍵盤もブカブカ弾けるようになった。このあたりの習熟速度は小学生特有のものである。
当時のエレクトーンは今のような高機能が無かったので、手数足数の勝負だった。まだタッチで音量を変える機能も無く、ペダルで曲想をつけるのも貴重な経験だった。確かクラリネットポルカ変奏曲に適当なオカズを付けながら鬼のように速く弾いた記憶がある。
そして本番だが、小学生の強さであがる(緊張する)こともなく、演奏する機種も同じということで練習そのままの出来で終えることができた。もう一人、上手な女性がいたが、妙齢の女性ということであがったらしく、音質設定にミスがあった。当時は奏者が変わるたびに音質レバーを手動でいちいち設定していたが、うまく行っていなかった。これはいただいたな、と思った。
と、発表前に審査員長がやってきて、”まあ、TOMOYAは2位かな”とか言っている。リハーサルでは彼女の方が上手だったので、そんなものかと納得したのである。今思えば、営業のためにも、若い女性の方が向いていたのかも知れないし、おそらく優勝者を含め、他の出場者もwebmasterと同じ様にサクラだったのかも知れない。その後の電子楽器の隆盛はご存じの通りである。
もちろん、本当の音楽コンクールははるかに厳しいものであるが、それとて奏者も審査員も顔なじみであり、そのなかで当日の調子が良く、曲想を最も良く表現できた奏者が選ばれるのである。それは、オリンピックのフィギュアスケートのようなもので、トップクラスの実力は接近しており、あとは一発勝負、肝っ玉の問題なのである。
審査員長は、そのかわりにエレクトーンの講師グレードをやってもいいと言った。”お願いします”と言えば良かったのであるが、今も後悔している。従って、残っているのは表彰状と古ぼけた盾である。
これもコンクールに対しての2番目のトラウマとなってしまったが、思えばいろいろ貴重な体験をさせていただいたものである。
関係者の多くは故人となっているが、上村澄春先生はご健在で、今もピアノ、合唱、作曲など多方面で教育に尽力されている。先生は器用な方で、オケで人が足らないときは専門外の2ndバイオリンやビオラを上手に演奏されていたのを思い出す。(P.S. 上村澄春先生は2012年に逝去されている。)
実はwebmasterは当地の少年少女合唱団にも属していたし、また小学校のNHKの全国合唱コンクールに入賞したこともある。実はその先生がたも上村澄春先生も猪本乙矢先生も私の家族とも懇意の関係だった。
そんなちょっと強引な先生方の努力もあってか、地方としては音楽環境に恵まれた県になっていることは喜ばしいことである。デキが悪い生徒だったWebmasterもそんな先生方に感謝を欠かしたことは無い。そうそう当地にある音楽学校HのI学長も同じ合唱団にいた幼馴染である。
そうこうしているうちにG大指揮科を目指していたはずが医者になってしまい、webmasterのピアノのキャリアは終わってしまったのである。大学ではピアノを途中で頓挫した多くの友人にタダでピアノを教えていた。またニューヨークでは医学生にピアノを教えたこともある。米国でもソナチネアルバムは使われていることを知った。
今は気に入った曲を時に練習するだけであるが、楽譜を読むより耳コピの方が早いのは昔と同様である。しかし曲が難しくなり減5度7度などが混じるとなかなか難しい。音を拾っていくと、どうしても不協和音なのだが、パッセージのなかでは調味料となって美しく聞こえる、という曲が多いからだ。その見事なメカニズムを見ると、ショパンもベートーベンも尋常の天才では無いことが良くわかる。
時折、譜面の指使いに納得がいかないこともある。そこでピアニストがどう弾いているのかyoutubeで確かめることにした。今は譜面もネットで入手できるので便利な時代だ。
そこで目に飛び込んできたのが”のだめ”の実写版、アニメ版、ゲーム版の動画である。それと漫画をみることで、ほぼ全容を把握できたのだが、webmasterのしがない経験から判断しても、”のだめ”のトラウマは迫真に迫っている。
というか、トラウマのシーンは、体が震え、他人事とは思えなかった。Webmasterのトラウマも同時にフラッシュバックしたからである。そのようなシーンがあると怖いので、テレビを見なかったというのが正直なところであるが、そのようなシーンがなければウソなのである。
おそらく、脚本には、”リアルのだめ”に限らず、似たようなトラウマを持つ多くの人間が深くかかわっているのであろう。曲の選択、あるいはスジの展開も、このトラウマに沿って構成されている。そして、登場人物に似た友人も多く目に浮かぶ。
ある友人はピアノ練習を再開するために明るい木目のピアノを買った。黒いピアノをみるとトラウマがフラッシュバックするからだと言う。トラウマは根深いが、色を変えるだけで簡単に解決することもある。要するに納得できる意味づけがあればいいのであって、経験者で木目のピアノを買う客の何%かは似た理由なのではないかと想像している。実際Webmaseterも木目のグランドを弾いている。
さて、”のだめ”は、コンクールのなかで、ショパンのエチュード10-4や、リストの超技巧曲”鬼火”を、いかにも面白くないように、しかも的確に弾く。その後のヨーロッパスペシャルでも、リストの超技巧曲”マゼッパ”を楽しくないように弾くシーンがある。
主演女優はピアノの経験があるらしく、スウィングガールズ以来の彼女の起用は成功している。体の動かし方もそれらしいが、さすがにマゼッパは弾いているように見えない。それは彼女が悪いのではなく、曲に無理があるからである。この曲は手が2本しか無いのに譜面は3段あるのだ。
しかし、”のだめ”は、単に技巧的な曲は何らかの必要性(彼氏についていくため)に迫られて弾くだけであり、本当に弾きたい曲は違うというメッセージなのだと思っている。
上手に弾くマゼッパをオクレール先生は酷評し、シューベルトやもじゃもじゃ組曲を評価する。このあたり、音楽関係者のリストに対する微妙な評価(尊敬するが嫌い)が現れていておもしろい。もっとも、ラベルの難曲”鏡”やドビュッシーも登場すること、また千秋の口で語られる鬼火やペトルーシュカが好意的であることから、好きな曲が情感を表現するために難曲になったものは許される、あるいはフランス方面に甘い脚本家の好みが現れているのかも知れない。
webmaseterが知らなかった曲が、シューベルトのソナタ(D.845 Op.42)で、これはベートーベンの悲愴第二楽章(カンタービレ)と並んで、この漫画のテーマ曲だが、何となく弾きやすい気がした。Youtubeは昔のレコードと違って絶対的な音程が正確なのだが、どうも♯♭の調号が無い(ハ長調ないしイ短調)に聞こえるからである。
譜面を入手して弾いてみると、ベースはイ短調ながら必要に応じて♯♭が割り振られイ短調→ハ長調→イ長調→二短調→イ長調と転調が多いものの、コンクール曲としてはやさしい。しかし、曲の構成が複雑でなかなかノーミスにならない。主旋律が変奏曲のように移調転調しながら繰り返される。
”のだめ”の模範演奏のテンポはかなり遅いが、いろいろなテンポで弾いてみたところ、やはりこのテンポが一番良い。ユニゾン、そして和音、それが不協和音であっても、一つ一つが非常に慎重に選ばれおり、スルメのように味がある。
そういえば”のだめ”でも、”転調に気をつけろ、”一音、一音、無意味な音なんか無いんだぞ”、”見えてこないか、この曲の情景が”とあるが、実に適切なセリフだ。おそらく、漫画を監修した音楽関係者の言いたいことは、テクニックにおぼれることなく、一音一音の響きを、曲想を大事にせよ、ということなのだろう。その意味でも、一音一音を十分味わうテンポが適切なのだ。
音符の数は少ないが一音一音趣がある、という点ではベートーベンの悲愴とも似ている。ベートーベンのピアノ曲は♯や♭が少なく弾きやすい。どれも主旋律(動機)の繰り返しが多いのが特徴で、それが少しずつ移調、転調、変奏、フーガしながら執拗に繰り返される。
特に移調のパッセージは重要で、ショパンなどに比べると数少ない和音一つ一つが絶妙に選べれており、音符の数あたりの情感の効率は高い。交響曲では動機の繰り返しが少々くどく感じるベートーベンだが、ピアノ曲はショパンが緊張したと言われるほど、優れている。
それに比べると、リストの超絶技巧曲集では、譜面の音符が印象派の絵の点描のように感じられる。音楽が立体的で音の広がりが波のように、雲のように押し寄せてくる感じであるが、それを実現するために奏者に大きな負担を強いている。
対照的に、誰でも知っているベートーベンの小作品に”エリーゼのために”がある。まるで遺伝子に刷り込まれたように心地よく聞こえるが、その音符の数あたりの感動効果はリストと比べ20dBは優れており、業界最高の効率だと思う。個人的には超絶技巧練習曲11番はカンパネラと並んで好きな曲なのではあるが。
さて、今後”のだめ”がどのように展開するかは解らないが、Webmasterは”のだめ”は技巧を追求するタイプのピアニストにはならない、もっと作曲などのクリエイティブな方向に進むと予想しているが、はずれるかも知れない。
この”のだめ”は、出てくる曲はどれも絶妙に選ばれている。今の資本主義の世の中で、これほど細部まで丁寧に手間がかけたられたドラマが、手抜きのバラエティーショーと同列に存在すること自体が驚きでもある。
今webmasterは、”のだめ”に登場する曲を練習しているが、リストは二度と弾くこともなかろうと思う(以前トライして腱鞘炎となり数ヶ月ダメージが残った)。そのかわり、シューベルトは完成目前まで来ている。歩くのもよぼよぼのホロビッツやアラウが立派にピアノ演奏していたことを考えると、ピアノは老いていくwebmasterにとってももありがたい趣味である。
”のだめ”とはレベルの差はあるのだが、似たようなトラウマの共有には大きな癒しの果があった。”のだめ”という漫画のテーマが何なのかについては諸説あるが、個人的には若いカップルのトラウマからの旅立ちの漫画である、と思っている。おかげで、webmasterは”トラウマも悪くないな”と、ピアノを楽しめるようになった。その意味でも、”のだめ”の影響は実に大きなものなのである。
最近のパソコンのサウンドシステムは5.1チャンネル対応などと高度化しており、コントロールパネルには疑似3Dのシカケが組み込まれているものが多い。
疑似3Dシステムとは、狭い間隔で置かれたプアなPCのスピーカーの再生音に幾ばくかの臨場感を付加しようとするものである。その多くは間接音(R−L)を強調するもの、あるいはサウンドシステムのDSPを用いて残響音の伝達特性を付加するものであり、これについては過去、
□Mar. 7,1998:山本式バーチャルサウンドシステムのナゾ
で取り上げた。しかしながら、DSPで加工したものはわざとらしい印象がつきまどい、常用には耐えない。工学的には伝達特性のコンボリューションの積で作成されるものであるが、過渡特性に不自然さが感じられるのは、携帯電話のcodecとも共通する現代の情報工学の限界というべきものだろう。
一方、間接音(R−L)をベースとたものは、原音に対する加工度が低いというか音を作った印象が少なく、自然に聞こえるのが特徴だ。これについては、
□April 21,1998山本式バーチャルサウンドシステムのナゾその2(原理解説編)
でも紹介したが、もっとも普及しているのはSRSシステムであろう。かつてはSDSシステムと呼称していたが、原理は同じものである。
これも上記リンク中で説明したように、原理的には間接音成分(R-L)に若干の周波数特性を持たせて強調したものだ。これは、耳たぶと耳の穴の解剖学的な形状から、前方からの音と側方からの音に伝達特性の違いがあることに注目したものである。
SRSの加工は簡単なアナログ回路でも、ソフトウェアP処理でも可能であることから広く普及しており、Windows_Media_Playerにも標準で実装されている。個人的には、SRSがやっていることは、上記の山本式バーチャルサウンドシステムや、
□Oct. 13,1998:山本式スーパーバイノーラルコンペンセーターのナゾ(その2、ソース編)
□Oct. 8,1998:山本式スーパーバイノーラルコンペンセーターのナゾ
と実質的に同じで、聴覚的な印象でも伝達特性のシカケはあまり効いていないのでは無いか書いたのだが、それを今回実証するのが目的である。
方法であるが、まずCDクオリティー(44kHzサンプリング16bit)でホワイトノイズを作成した。音源はステレオとし、左右にまったく同じデータを入れた。これをWindows_Media_Player(ver9)で、SRSをon-offさせながら再生して解析し、YVSSによる効果と比較してみようというのである。
なお、音源のYVSS加工には、
hirax.net::立体音感を考える::(1999.12.06)
で紹介されているアプリ WAVEMIXPRO.EXE を使わせていただいた。上記のサイトは、工学的にも美的センス的にも世界一のレベルではないか、と密かに信じている。
さて、SRSの効き具合の調節には、TruBASS(R)と呼ばれる低音強調と、Wowエフェクトと呼ばれる臨場感強調の2つのスライダーがある。まずWowをゼロ、TruBassを最大としたのが下図である。左が左右の信号をXYプロットしたもので、右がF特性である。ツールは苔が生えたような古いソフトだが、条件を固定して定性的な変化を見るのには十分だろう。
これでみると、XYプロットは完全に直線であることから、左右の音から間接音は作成されていないことがわかる。TruBassはその名前の通り200Hzより低い音を位相を操作せずに強調するもののようである。500Hz当たりに谷がある理由は不明だ、それより高音域は完全にフラットである。
次に、TruBASSをゼロ、Wowを最大としてみた。
これでみると、左右の位相はかなり広がりが出ている。全体としては、右45度上がり(R=L)の成分より、左45度上がりの間接音成分(R=−L)の方が有力になっている。また、周波数はハイ上がりとなっており、これは間接音の周波数特性にSRS独自の伝達特性が加味されているのであろうか。
さて、ここまで来て、このXYプロットはおかしいのではないか、と気付かれた方は賢い。というのは、原音の右と左の信号はデジタル的に同一なので、その左右差(間接音成分)はゼロのハズだからである。従って、これはパソコン出力の演算による過渡的なアーチファクト(人工物)が混じっていると考えられる。
可能性としては、左右信号のDAコンバーター出力に時間差がある可能性がある。最近まで普及帯のCDプレーヤーには左右出力に微妙な時間差があることが知られていた。これは当時DAコンバーターが高価だったので、1個のDAコンバーターを左右でクロック毎に切り替えて使っていた。
今回のXYプロット図を見てわかるように、左右差がフルスイングに近いものが含まれている。ホワイトノイズの元データーが乱数なら、わずか1クロック分のズレでもフルスイングに近い差が発生しうる。乱数列を一つずらしてもやはり乱数であり、その差も乱数ならこのような図になる。低域ではクロック毎のデーターの差が小さいので差分が小さく、XYプロットがほぼ直線になる。中高域ではクロック毎のデーター差はランダムに近づいが、それから同相成分を取り除けば左右差の成分が見えてくる、という説明で納得いただけるだろうか。
すべての計測は信号データ以外はまったく同じ環境で測定されたものであるであり、計測系自体には間接音の演算以外で僅かな時間差以外に位相を操作するものは無いので、位相差の定性的な比較はできると考える。
さて、TruBASS、Wowとも標準の中央位置とした場合が下図である。
XYプロットでの間接音成分(R−L)は、分布のつぶれ具合から適当に推測すると20%程度であろうか。周波数特性は350Hzを谷として低音と高音が穏やかに数dB上昇している。
VSSやバイノーラルコンペンセイターでも読者の方から多くのレスポンスをいただいたが、この手のシカケの効果は、音楽ソースがどの程度まともかに大きく依存する。
もちろん、マイクをオーソドックスに2本たてたライブ録音がもっとも自然で効果が高く、適当にミキサーで混ぜた音楽は自然に聞こえるハズも無い。もちろん、リスナーの間接音に対する感度もさまざまであるから、これは好みで調節していただくしかない。現在は、デジタル機器の蔓延により信号はどうにでも加工できるから、ますます不自然な音楽ソースが増えているのも事実である。
さて、YVSSやバイノーラルコンペンセイターでは30%程度の間接音を混ぜているが、SRSの設定を参考にhirax.net謹製のアプリ WAVEMIXPRO.EXE で20%の間接音を加えた音源データを作成して解析したものが下図である。
というわけで、SRSのデフォートと殆ど同じであることがわかるだろう。
幽霊の正体みたりというわけでも無いが、データを見てしまうと終わりなのだが、SRSの言う伝達特性の付加はあまり著しくはなく、あくまでも間接音成分の操作が最大の要素であることが明らかである。両者の差より、個々のパソコンやスピーカー特性や設定による周波数特性のバラツキの方がはるかに大きいと推測される。
結論として、SRSでもYVSSやバイノーラルコンペンセイターでも、効果を強調したいなら差信号を30%程度、ソースを選ばず自然な臨場感を得たい場合は20%程度加えれば良いということであり、後は好みで音質を調節していただければいいのではないか、というのがwebmaserの結論である。
USB機器の普及速度はものすごく、ver2.0で転送速度が改善されてからは、シリアルパラレルはもちろん、SCSIもIEEE1394(Fire Wire)も霞んでしまった。さらに速度の速いver3.0も間近とのことで、今はSATAやPCI,PCI-EXで繋がっているパソコン内ハードも、将来はすべてUSBになる可能性すらある。実際に内蔵CDドライブがUSB接続のノートブックも多数ある。
そうなると、USBコネクターの重要性はますます高まるばかりなのだが、安物USBコネクターには接点の品質不良や甘い寸法精度のために、早々と接触不良を起こすものがある。周辺機器の中でもハードディスクやフラッシュメモリーなどで接続中に接触不良が発生するとファイル構造が破壊されて取り返しの付かないこともなりかねない。
しかしながら、USBの接点は思ったより奥にあり、両端の接点には0Vと5Vの電源で500mA以上の供給能力があることから、導電性のある万能接触不良治療装置コンタクトZや金属性ヤスリを無造作につっこむには危険がある。かといって、目の粗い紙ヤスリで無神経にこすると、ただでさえ薄い金メッキが剥げてしまう。
そこで、USBの接触不良にはコンタクトRを試していただきたい。コンタクトRとは、何かと副次的に手に入る特殊研磨紙のことである。
さっそく実践だが、まずコンタクトRを入手する。といってもポケットにころがっているかも知れない。料金とか、オツリとか印刷されている例の白い紙である。
これを写真のように折り曲げる。正確には幅は10.5mmであるが、入らなければ曲げ直せばいいだろう。これを挿入して数回往復させ、それでも不良がなくなれば裏返し、それでもダメならもう片方を挿入する。そでもダメなら、ハサミで切ってフレッシュな表面を出せば良い。一回作れば数個のコネクターを処理できる。
注意するのは、コンタクトRの有効成分はごく表面の白いコーティング材であって、こすり過ぎると内部のマイクロカプセルがつぶれて黒変してしまう。黒い部分にはコンパウンド作用は無いので、黒変する前に新しい面にチェンジするのがミソである。なお、この特殊研磨紙には表面の光沢が強い上等のものもあるが、表面が少しザラついた安物の方が用途に向いている。
個人的には数年間構想を温めてきたものであるが、最近USB端子不良でファイルを失った同僚からの熱い訴えに対し、しょうもないアイデアながら効果が高いことから、お披露目した次第である。なお、この特殊研磨紙には導電性は無いが、パソコンの端子などでは念のため電源を落として処理したほうが安心かもしれない。
さて寒波となればヒートポンプのエアコンは能力が激減するので、ファンヒーターなどを併用することになるが、困るのは調子の悪いファンヒーターである。そして、ファンヒーターのトラブルのかなりは、フレームロッドの不調によるものではなかろうか。
フレームロッドとは、バーナーに突出している棒である。燃料が燃焼すると電離するためフレームロッドとバーナーの間の抵抗が減少し、電流が流れるようになる。換気不足などで失火すると急速に抵抗が増加するので、ファンヒーターはそれを検知して自動停止する。換気不良を防ぐ重要なセンサーであるため、ちょっとした不具合でも安全策(つまり自動消火)の方向で設計されている。
しかし、家庭内には床や家具のワックス、コーティング、洗剤、シャンプー、化粧品、防水加工品などにシリコーン加工品が使われており、これらの気化物が燃焼するするとガラス質のSiO2となってフレームロッドに付着する。これが通電を妨げるためにトラブルとなる。
症状としては何回かやりなおさないと着火しない、また能力を絞ると失火しやすいなどである。またバーナーや吹き出し口が粉を吹いたように白くなるので、シリコーンが原因であることが簡単にわかる。
そこで、修理としてはファンヒーターを分解してフレームロッドを交換するか、あるいはワイヤーブラシで清掃することになるが、敵は石英と同じガラス質なのでなかなか除去しにくい。さらにファンヒーターは高度な電子回路でコントロールされており縦横に配線が走っているし、漏油すると火災の危険があるなど、通常のユーザーには分解修理は危険であり勧められない。
Webmasterの居室のファンヒーターも床に塗られたシリコーンワックスのために、年に2,3回フレームロッドの掃除を余儀なくされている。それにはバーナーを分解する必要があるため、気が進まない修理である。
長年来Webmasterはこのフレームロッドの掃除方法を研究してきたのだが、このほどバーナーを分解する必要の無い画期的な掃除方法を開発した。名付けてフレームロッド風水クリーンアップ法である。それは、文字通り水と風で掃除するのである
以下に手順を示すので、白変フレームロッドに悩んでいる方は参考にして欲しい。なお、この方法に関する一切のトラブルを本ページは担保しないのは言うまでも無い。
用意するもの
1)ファンヒーターの前面パネルをはずすためのドライバー(+)
2)水鉄砲のようなもの(スポイド、注射器、霧吹きなど)
3)外まで水蒸気が飛び散ることは無いが、気になる人はゴグルを着用のこと
4)昨今絶滅に瀕している、自ら科学しトラブルを解決する自立した心。
この修理法が適応できるファンヒーター
バーナーに窓があり、赤熱したフレームロッドが確認できる製品。
手順
1)ファンヒーターが冷えているときに前面パネルをはずす。通常は前面パネルの側面の上下にネジがある。
2)バーナーの前面にあるのぞき窓の雲母板をはずす。
3)ファンヒーターを着火し、フレームロッドが赤熱したら消火する。フレームロッドが赤熱している間に水鉄砲で 10ml-30ml程度の水を掛ける。あるいは、フレームロッドめがけて霧吹きで水をかける。この作業を2,3回繰り返す。
4)雲母板と前面パネルを戻して作業は終了である。雲母は丁寧に扱わないと割れることがあるが、雲母板が無くても通常は問題ないようだ。
修理方法の原理
フレームロッド(タングステン)と、それに付着したガラス質の温度の膨張率が異なるため、水分で急冷される時にガラス質にヒビが入り、同時に水蒸気の圧力によって脱落、四散する。このためにフレームロッドの機能が回復する。通常バーナー付近は高熱なので、噴出した水分は瞬時に蒸発して消滅する。
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写真はほぼ同じ条件で作業前(正しくは1回水をかけた後)と3回作業後のフレームロッドを撮影したものである。照明の関係で肉眼より解りにくいと思うが、フレームロッドの色が黒色に戻っている様子がわかるだろうか。また、丸いバーナーヘッドと、それを塀のように囲む保炎リングも細部まで黒くなっている。
この方法はフレームロッドの清掃法として究極と言えるだろう。個人的には、この修理方法によって機能がよみがえるファンヒーターの数を日本全国で数十万台と見込んでいる。
ファンヒーターの機能回復による金銭の節約は数十億円レベルに上り、いまや貴重なレアメタルや電子回路などの資源の節約となるであろう。
しかし、いざ出張、いざ鎌倉という段になって、リチウム電池がダメになっていることも多い。常時パソコンが賢く充電の管理をしているハズなのに、である。
ユーザーとしては納得が行かない話だ。というのは、同じリチウム電池でも、携帯電話は毎日使っていても、1,2年は十分使えるのに、パソコンでは早い場合は半年で高価なリチウム電池がダメになる。
Webmasterの経験では、リチウム電池の寿命は電池の仕様より、パソコンメーカーに依存する。電池が長持ちしたのは90年代のThinkpad760Eで、常時電源接続で7年酷使後に液晶のインバーター故障で寿命を終えるまで、リチウム電池は50分以上の持ちを維持したた。
一方、数多く存在する○ッツノートのリチウム電池の寿命はかばかしくない。近年、リチウム電池の技術は激しく進歩したはずなのに、である。
ノートで使われる代表的な規格品に18650(直径18mm長さ65mm)がある。この電池では、充電をやめる電圧(充電終止電圧))が4.2V、放電をやめる電圧(放電終止電圧)が3.0Vと指定されており、規定された電流と温度下で充放電する限り、サイクル寿命は保証されるハズである。
最近はメーカー間の容量競争が進み、充電終止電圧は変わらないものの、放電終止電圧は2.5Vまで低下している。18650の容量は以前は1500mAhだったものが現在は2600mAhまで増えているが、その要因のひとつに充電終止電圧と放電終止電圧の幅が拡大したことがある。しかし、欲張った容量に充電回路のマズい設定、計測誤差のせいで、すぐダメになる電池が出るのである。
そもそも、リチウム電池には満充電を保つと寿命が短くなる特性がある。また完全に放電してしまうと不活性化する性質もある。このため、メーカーは組立、活性化のあと、かなりのサイクル数エージングし、特性の揃ったものを組にして電池パックを作っている。また劣化要因として大電流の充放電、高い環境温度などがある。あの歴史的失敗作である発熱CPUのPentium4の時代には、バッテリーには過剰な負荷がかかっていた。
Thinkpad無き今(無くなったわけでは無いが)、○ッツノートはモバイルパソコンとして人気があるが、リチウム電池がすぐダメになるという風評は強かった。これに対する松○の秘策がエコノミーモードを実現するアプリで、充電を容量の80%までとすることでサイクル寿命が50%長くなる、と言うものである。
要するに、これは松○が
”今までギリギリまで容量を確保する設計のせいで、早く電池がダメになってごめんなさい。これからは、容量を欲張らない設定も作りましたから、よろしくね”
と、自分の悪行をゲロしたようなものである。これに引き続き、$ONYも似たアプリを搭載するようになった。許せないことに、松○も$ONYもリチウム電池の大手製造メーカーで、性質を熟知しておりながら、欲張った容量で電池寿命を短くしていた確信犯なのである。
さて、リチウム電池がすぐにダメになるシナリオを電池メーカーがゲロした情報に即して考えると次のようである。
1)電源につなぐとリチウム電池は充電終止電圧4.2Vに達し、充電が止まりると共にパソコンには100%と表示される。しかしハードのばらつきや意図したズルのため、実際の電池の能力以上に満充電されるものもあり、劣化が進む電池が出てくる。
2)電源につないでいてもリチウム電池の電圧は次第に低下する。パソコンによっては4.2Vを割るとすぐに再充電がかかるものと、ある程度電圧が下がってから再充電するものとある。この充電開始の電圧が高目だと頻繁に充電サイクルがかかるとともに、電圧が4.2V付近に長く維持されるため劣化が進む。パソコンの実装によっては、電池が熱いCPU付近にあったり、電気喰いCPUのために放電電流が大きかったり、充電時間をケチるために充電電流が大きくかったりすると、電池の劣化が更に進む。
3)ノートを持ち出すか、あるいは電源につながず放置することもあるだろう。電池が放電終止電圧に近づくとOSはサスペンド、もしくは終了する。終了なら電池パックの管理用CPUが消費する電流はわずかだが、サスペンドだとかなりの電流が流れ、放電終止電圧になるとパソコンはそのまま失神終了することになる。
4)パソコンをOFFにしても、電池パック管理用のCPUは電気を喰っている。パソコンによっては、本体に実装するだけで電流を喰うモノがある。そのまま放置すると、電池パックの中で劣化が早い電池が急速に電圧を失ない、特定の電圧(ここでは、死亡宣告電圧と呼ぶ。1.6-1.8Vあたり)を割ると、電池パックの管理用CPUは、たとえ一部の電池が電圧を失っても、電池パック全体が死亡したと宣告する。そうなると、充電ランプすら着かなくなり、パソコンからは存在しない、と解釈される。
5)実は、この段階で個々の電池の電圧を見ると、全てが死亡宣告電圧を割っている訳ではない。死亡宣告電圧を割っても1.2V以上あれば小電流(10mA程度)で1.8V程度まで充電すると、電池パック全体が復活することもある。
6)さて、死亡宣告され、充電不能になった後も、電池パック管理用CPUは少量の電流を消費している。1.5Vを割った電池は次第に不活性化され、電圧がゼロとなり、その後は他の生き残った電池から逆充電される。陽極にマイナスの電圧がかかり、これが続くと電池はマイナスの電圧を示すようになる。こうなると、内部構造が電解して破壊され、復活は不可能である。
以上のシナリオから、ノートでは残り容量が70%の時に本体からはずす。時々本体に実装して残り容量を確認し、20%を割っているようであれば70%まで充電する。このサイクルを繰り返すのが電池を長持ちさせる方法ということになる。しかし、70%ちょうどで電池を取り外すのはなかなか難しい。
とすれば、松○のように、充電容量を70%までと設定するアプリを書けば良いことになる。しかし、これはOSの電池管理機能ACPIをパスして、直接リチウム電池パックの設定を操作することになり、どのハード、どのOSでも統一的に動くアプリを書くことは至難のワザである。
特に、Win9X、Win2K/XP、VISTAではACPI周りの制御が違うので、統一的なアプリを作るのは不可能だ。そこでWebmasterが着目したのは、OSの電源管理機能を利用する方法である。
先に材料となるWAVファイルを提供する。
♪ 女性の声で、”バッテリー容量が70パーセントになりました”
♪ 女性の声で、”バッテリー残りが70パーセントになったみたい”
丁寧な言い方と、くだけた言い方の2通りを用意した。これを右クリック、対象を保存する、で\winntディレクトリーあたりに保存しておく。
ここからの使い方は次の通りである。
1)コントロールパネル、電源オプションのプロパティ、アラームパネル、”電源レベルが次に達したら,,,”にチェック、スライダーを70%に、アラームの動作で”音”と”テキストで知らせる”にチェックする。
2)コントロールパネル、サウンドとマルチメディア、サウンド、イベントで”バッテリ電圧の低下”をクリック、名前の欄に上記サウンドファイルを指定する。
以上である。Win9X、Win2k、WinXPではどのマイナーバージョンでこの方法が使えるハズである。残念ながら、webmasterの周辺ではVistaはすべてXPもしくは2kに書き戻したので、Visrtaではどうするかを説明できない。あしからず。
使い方としては、まずバッテリーを満充電する。次に電源コードを抜いて、仕事しながら電池を消耗させる。残容量70%になったらアナウンスとテキストの警告が出るので、電源を再度つなぎ、バッテリーをはずす。これだけである。
今回の音声は日の丸電気の16bitエンジンを使用したが、音質はどうだろうか。今風であれば、初○ミクあたりに歌を歌わせるのが適当だろう。あるいは電源オプションのパネルから、”アラーム時に特定のアプリを実行”を指定することも可能である。
なお、windowsには、メニュー、プログラム、アクセサリ、エンターテインメントに、サウンドレコーダーがあるので、ご自分もしくはパートナーに頼んで音声ファイルを作ることは簡単である。ぜひご自分で好きな警告ファイルを作って欲しい。
個人的にはノートパソコンには、”不必要な電気を喰うよりは、必要な能力で安心して長く仕事ができるように能力と電池寿命を設定しました”とか、”もっとも地球に優しくない、すぐ壊れる、すぐ電池がダメになるパソコンにならないように作りました”という言葉が欲しいのだが、なぜかベビーユーザー全員が望む要件は叶えられない。
その結果、ユーザーは、不必要なOSのガラクタと過大なCPU電力消費、すぐ電池が無くなる、すぐ電池がダメになるノートをかかえて、金銭的環境的負荷に呻吟しなければならない。これは一種のハイテク拷問であるとも言える。