続新幹線"のぞみ”の横揺れとスカイフック理論のナゾ
今日の話題は新幹線500系の横揺れ対策である。まずセミアクティブサスとアクティブサスであるが、その前に最近流行のスカイフック理論というのがあり、トヨタのカタログにも載っている。説明の絵は財団法人鉄道技術研究所のプレスリリースのリンクであるが
まず車両が理想的な仮想ダンパーを経て、動かない壁に固定してある状態(スカイフック)を考える。理想的なダンパーは初期動に渋さが無く、動作速度に完全に比例した減衰力を生じる。スカイフック理論では車両の動揺を仮想ダンパーで制御された場合の動態に限りなく近づけるように、車両と台車のサスを制御する。
さて車両のみに外力が加わった場合を考える。例えば新幹線が離合時、トンネル内走行時に車体やパンタグラフが受ける空力加振力がそれに当たる。この場合はダンパーを限りなく堅くして車体の動揺を抑える。実際には台車も揺れているから完璧では無い。
逆に台車が軌道狂いで左右動した場合には縮み側初期にダンパーを限りなく軟らかくして、ストロークと共に堅めに制御していく。また伸び側はぐっと締める。と書いてみてこの話題はどっかで触れたような気がした。そうそう
のところで、上等なダンパーは初動が渋くなく、縮みはしなやかで伸びはぐっと締まるのが理想的だが、残念ながら安物は初動が渋く縮みでみょうに突っ張り、それでいてだらしなく伸びる。外国の高級ダンパーは目的の特性を多重リリーフバネで実現しているわけだが、残念ながら国産のはエレキの力を借りても及ばないワケである。あるいは、ダンパーメーカーが納入価格底上げを狙って付加価値を狙っているだけかもしれないが。
実際のお写真も公開されている。この部分はボルスターレス台車の牽引装置に組み込まれているので外からは見えない。
当然完全なスカイフック制御はダンパーだけでは無理だ。ダンパーはアクチュエーターと違って積極的に何かを動かすわけではなく、何か動きがあって初めて制動力が生じるから、制御は必ず。それに車両の加速度センサーは車両に加わった加速度がそもそも空力加振によるものか、台車からなのかを区別することが困難だから、完璧な制御は望めない
もし普通のダンパーだけで柔らか目に制動すれば台車の横揺れは取れるが、離合時の空力加振時に車体の揺動が大きくなってしまう。そこのあたりのコントロールを狙ったものかもしれない。これに空気圧のアクチュエーターを併用して積極的にサスを動かせばアクティブサスとなる。さらに制御に経験による予測などのインテリジェント機能を組み合わせることになる。
しかし、アクティブサスには予想しない外力が加わった場合や故障時に制御が破綻する危険がある。この点セミアクティブなら故障時にはタダのダンパーに戻るだけだから安全だ。これがJRがセミアクティブの方を好む理由であろう。
次に車両間ヨーダンパーであるが、同じく財団法人鉄道技術研究所の月例発表のリンクからであるが
のようになっている。前述のセミアクティブサスは左右動対策であるが、車両間ヨーダンパーは編成車両の蛇行対策である。実際の新幹線500系では写真のように車両連結部の外側の低いところにカヤバ製のかなり太い油圧ダンパーがついている。以上の対策に加え、空力加振動をさけるためにパンタグラフが小型化されヨーを発生しにくい車両中央に寄せられている。
さて500系の乗り心地はどうだろうか。明かり区間(通常の区間)ではヨーは体感ではのぞみ300系の半分以下で連結部の動揺も半分以下のように感じる。しかし遮音壁が近接している部では時に揺動を感じた。従来ののぞみでは細かい揺動で体感できなかったカーブでの横Gや軌道の高低差を感じるようになった。
ただしトンネル区間になるとやはり揺れるが、それはやはり300系の半分以下である。連結部の挙動を見ると、かなり結合度が高くなっている。従来の300系は車両と台車の結合が強く連結部の結合が弱い感じだった。対して500系では連結部の結合が強く、車両と台車の結合がゆるい感じだ。ボギー式ではあるが連接車に近い挙動になっているようだ。
出張でこの一週間に300系に3回、500系に1回乗車したが、300系ではなかなか居眠りが続かない。ちょっとまどろんでもその後体に疲れがのこる。何のことは無い、自分の体がスカイフック理論を実現すべく筋肉を使って座席に対してアクティブ、セミアクティブ制御をやっているので肩が凝るのだ。対する500系ではかなり気を張って挙動を観察したにもかかわらず、うかつなことに居眠りしてしまった。その差は大きい。
たとえ新大阪ー福岡間で15分短縮したとしても、その疲れがまる一日体に残るようなら進歩とは言わない。体感的に500系は合格点であるが、従来ののぞみ300系は早急にヨーダンパーだけでも付けない限り現代の高速鉄道としては失格である。100系で実地試験したぐらいだから、のぞみにレトロフィットする位は明日にもできるはずだ。
また500系についてもさらに改善の余地がある。連結装置に左右動のダンパーを組み込むとか、あるいは座席自体にサスペンション(横方向のみの)を組み込むとか、発想の転換も必要かもしれない。
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続新幹線"のぞみ”の横揺れとボルスタレス台車のナゾ
きょうは豪華版である。更新できなかったのは大阪に出張していたからである。以前新幹線”のぞみ”のゆれがひどい話を
Feb. 25,1997 (Tue.)
新幹線"のぞみ”の横揺れのナゾ
に書いた。この件についてはのぞみ300系、のぞみ500系の実地調査(笑)を進めてきたが、ついに某日某社某工場において実験車両Win350、STAR21、E2、500系等の台車を念写(関係者に迷惑がかかるため)することができた。このページを読めば台車のナゾをほぼ100%理解できると思う。おそらく電車の台車について論じた世界で唯一のページだと思う(本当か?)
さて通常の車両には台車がついている。実際には車両の下には枕(ボルスター)があり、その下には枕ばね、その下には台車枠、その下には軸ばね、そして輪軸がある。
輪軸の支持の主な物には摺動式(ペデスタル式)、リンク式、板ばね式などがある。地下鉄や路面電車には図示してないが単なるゴム支持式のがある。
摺動式は潤滑が必要だし摩耗すればガタがでる。これを改善したのがシュリーレン式(円筒案内)で、摺動部分が円筒形になっていて円筒が上下に摺動する。
摺動式よりはリンク式、リンク式よりは板ばね式がメンテフリーになる。リンク式にはリンクが一本のモノリンク式と軸箱とリンクが一体化した軸梁式、リンクが上下に2本あるダブルリンク式、軸箱を挟んで左右に2本あってワッツリンクを形成するアルストム式がある。アルストム式は上下動の軌跡がほぼ直線となる。
板ばねにはドイツ-ミンデン式(IS式)と言って軸箱を挟んで前後2枚で輪軸を支持するものと、上下2枚で支持する住友式の変形ミンデン式がある。新幹線では0系のDT-200や100系の202などの古い物はドイツーミンデン式で左右の板ばねで支持してある、と書いたが500系やE系統の川崎系は軸梁式になっている。また軸ばねにはオイルダンパーもつく事がある。
さて次に台車だが、従来の車両では台車の上に枕がある(注:揺れ枕式と呼ばれる古い台車では台車枠から揺れ枕リンクで揺れ枕がぶら下がり、その上に枕バネを介して枕が載っている。JR103系のDT33など)。枕の中央には心皿という回転軸がある。また両端には側受(がわうけ)があり、そこに摺板(レジン砥石のようなもの)がある。枕は心皿を中心に回転し、車両を牽引する。心皿と摺板は車両の重みを受け、枕が回転した時は車両下面を摺って台車の蛇行をダンピングする。
次に空気ばね車両の場合は車両と枕の間に空気ばねがあり、ボルスタアンカーというリンクで枕は車両に結合されている(ダイレクト式)。枕と台車の間には心皿と摺板があり、ここで回転するわけだ(注:図は新幹線0系や私鉄のダイレクト式台車の構造であり、インダイレクト式と呼ばれるDT46などのJRの古い空気バネ台車では車両の重量は、心皿と側受け、枕、空気バネとボルスタアンカ、揺れ枕、揺れ枕リンク、台車枠の順に伝わる)。
注意してもらいたいのは、従来の台車も空気ばね台車も縦方向には軸ばねと枕ばねの二重のばねが効いているが、左右方向には積極的なダンパピング装置が無いので、何らかの付加装置が必要になる。古い車両では揺れ枕が左右にスイングして車両が上下するがダンパーは無い。これがヨー(横揺れ)の吸収が難しい原因である。
さて500系新幹線で使われているボルスタレス台車はJR西日本公開ページで見ることができるが、軸ばねは軸梁式で、ボルスタレス台車の名前の通り枕が無い。
従って車両と台車の間には空気ばねと何らかの牽引装置がある。箱式牽引装置は板ばねを四角型に形成してあり、台車の左右動には四角がたわんで平行四辺形になって緩衝する。あるいは1個または複数のリンクで接続するものもある。いずれも左右動をダンピングするために(図示して無いが)牽引装置と台車間に油圧ダンパーが仕込んである。
上下方向には牽引装置が対処する。台車は牽引装置を中心として回転し、台車の両側にある空気ばねのゴム袋が変形して回転を吸収する。台車だけを見たときには気付かなかったが、上の写真を見ると台車の回転方向を制動する台車ヨーダンパーも付いている。
このように、車両の支持(空気ばね)、牽引力(牽引装置)、上下動の吸収(空気ばねと軸ばね)、左右動の吸収(牽引装置)、台車の回転(空気ばねのたわみ)というように、力の加わる方向で役割分担がはっきり決まっている。これによって、ヨー、ピッチ、ロールなどに対しての対処しやすいわけだ。またそれぞれにすべて専用のバネとダンパーがセットされている。
ボルスターレス台車は枕構造が無いので軽くなる。また磨耗する心皿や側受の摺動部が無いのでメンテが簡単になる。左右動に対してダンピング装置がある。500系新幹線では、左右方向のダンパーの弁に細工をしてセミアクティブサスと称している。またこのダンパーを空気圧で積極的に左右駆動するアクティブサスも開発されたが採用されなかった。
さて、500系新幹線には、このボスルターレス台車、セミアクティブサス、アクティブサスに加え、車両連結部に車両間ヨーダンパー、ロールダンパー、小型パンタグラフ等のヨー対策が施されているが、詳細は次回へ。
P.S. パパと雅人の鉄道アルバムに行くと、Win350と500系が並んだ写真や組立途中の500系他鉄道の写真イロイロがある。
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電気通信技術の未来のナゾ
だれにも電気通信技術の未来を見通すことなんかはできないが、行政が何を考えているかは、昨今の情報公開とインターネットのおかげで情報を得ることができるようになった。もとより審議会の内容はしかるべきところに出向けば閲覧できたわけだが、これがネット上で見えることの意義は大きい。
ここのサイトをこられる方は医療関係の他に電気通信方面の方が多いようで、今回はネタを一つばらして見たい。それは郵政省のホームページ内に公開されている電気通信技術審議会議事録である。最近のを拾ってみると、
第95回電気通信技術審議会議事録では、デジタル方式携帯・自動車電話へのパケット通信技術の導入、地上データ放送の技術的条件、電波利用における人体防護の在り方、高度情報社会を展望した電気通信の標準化に関する基本方策などについてなどである。表現は非常にわかりやすく分析も的確であり、官僚的なメーカーの文章よりはよほどわかりやすい。
第97回電気通信技術審議会議事録では、携帯・自動車電話の需要予測及び周波数利用効率の見直し及び「CDMA方式携帯・自動車電話システムの技術的条件と題して、今後のモービル通信がCDMAに移行していく上での具体的な問題点が述べられている。
またGSMやCDMAの世界的展望も詳しい。さらにアンテナ一体型無線設備の空中線電力の測定法に関する技術的条件では、アンテナ一体式無線機の測定法が述べてある。携帯端末では、法令のため調整用に写真に示すような測定用コネクターが付いているが、これを廃して端末とアンテナを一体として法令に適合した調整を行うことについてである。端末の中身については
Jan.3,1997 (Wed.)
お年玉巨編(笑) 初夢(機械の中を見る夢)
の中に幻が見えたような気がする。さらに特定通信・放送開発事業実施円滑化法の一部を改正する法律案についてでは、今後の地上波、ケーブル、衛星での新しい放送事業の問題が述べられている。
第98回電気通信技術審議会議事録では、家庭用電気機器、電動工具及び類似機器からの妨害波の許容値と測定法が審議されている。この中で、家庭用インバーター機器がかなりのノイズを発声していることと、日本の電気規格ではアース規格が不備であることが述べられている。
ワイヤレスカードシステムの無線設備の技術的条件では、高速道路のワイヤレスカードによる料金収受の問題点が、また地上放送のデジタル化に向けた取組についても、興味深い。
とかくU政省は話題に上ることが多いが、こういった審議会の情報公開は高く評価したい。また、この他にも多くの審議会議事が公開されているので、興味ある向きには貴重な情報源であろう。なおU政省は本ページアクセスログ(注意!サイズ!1MB超)によると結構お得意さんでもある。
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会社四季報のナゾ
会社四季報が書店に並んでいる。しかしあまり買おうとする気がわかないのは、あまりにも粉飾決算が横行しているせいである。数字がまったく信用度を失っている。SEC基準の決算報告をしている一部企業の数字(SニーとかTM銀行とか)の数字から類推するしかない始末である。
例えば話題のN債銀については、
March 31,1997 (Mon.)
ファーストフードのナゾと不良債権の簡単な算数
に書いたので詳細は述べないが、四季報には”債権売買もまずまずで業務純益は前期並みの1500億に迫る”、と書いてあるのがむなしい。週間T洋経済によるとこの銀行本店筋向かいのビルにP社、W社、J社、K社という連結決算に含まれない不良債権受け皿会社があるとのことなので、今度九段に出かけたとき見てこようと思う。
他にも最近突然破綻したN生保は実は数年前から債務超過であり、その後も毎年350億ロスしていたとか。もし数年前に営業停止していれば2000億近い欠損は防げたわけである。
マーケットには根拠の無い風説というのは付き物であるが、こと破綻した銀行、生保、企業などの不良債権額は風説の方が公表額よりはるかに正確であったのもむなしい事実である。
とはいえ四季報には新しい使い道がある。ホームページのURLが乗っているのだ。しかしホームページが無い一部上場企業がけっこう多いことに驚く。小学校のホームページも良く見掛ける今となっては、小学生から”サボっている”と言われても無理あるまい。
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スキー板の長さのナゾ
もう10年前位になるだろうか、マンハッタンに住んでいた私は何度かスキーにいった。日本ではドクター以外の商事会社、証券会社、メーカーの人と遊びに行くというチャンスが無いので面白かった。
スキー場に繰り出すが、意外とNY近郊にスキー場は少ないのである。つまり気温は低いが雪が積もる山が無い。そこでスノーガンで雪を作る。従ってスキー場の売り文句は”100%スノーギャランティード”である。
さすがに日本からスキー板を持ってくる人はいない(現地の方が安いから)、板を借りる。当然身長、体重、皮膚の色、目の色、国籍、運転免許、クレジットカードと万全の認証を経て貸してくれた板がみんな短い。身長は178cmあるが板は170cm弱しかない。日本で普通の身長プラス10〜20cmを要求すると、おまえは選手か?と皮肉られた。なるほど現地人のもみんな身長より短いようだ。
しょうがないので短い板で滑るが、これが快適である。貸し靴もサロモンの並グレードで、日本の貸しスキーとは様子が違う。一行には指導員やバーレースキーのうまい人などもいて面白い。ゲレンデはひたすら平滑で距離が長いので、ひざが伸びてしまった。
帰る段になって、スキー板の長さが話題に上った。そこで商事会社の人間が言うには、”おそらく、日本での身長プラス10〜20cmというのは、日本人に欧米人の身長用のスキー板をそのまま売りつけるための方策では無いか?”。もちろん、真相は定かでない。毎年色や形や厚さがめまぐるしく変わるスキーウエアと同様に、どうも完全に乗せられていた、という疑いが濃厚であった。
そういえばNY郊外という場所にも関わらず、現地人のスキーウェアはどれも地味であった。結構皮ジャンにジーンズという人が多いのである。ボーダーのせいで最近スキーもウェアも売れないらしいが、長年の商事会社やアパレルの商売のツケが回ってきたのかもしれない。
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オーディオアンプとヘルムホルツの共鳴器のナゾ
私が中学生位から抱いているナゾのひとつにオーディオアンプとスピーカーとの関係がある。不思議なことにオーディオが廃れた現在でも多くの雑誌が毎日湯水のように現れるオーディオ製品に文士がしょうもない評論を繰り返しているが、この問題に取り組んだ記事をほとんど見かけない。
さて現代のオーディオメインアンプは左図1のように、原則的には電圧制御の負帰還のアンプである。もし出力のスピーカーのインピーダンスZが純抵抗なら、これで理想的なドライブが行われるハズである。
しかしスピーカーというのは磁石にコイルを巻いた代物なので、純抵抗にはほど遠い。通常の負荷インピーダンスの4オームというのはおおむね1KHzあたりインピーダンスであり、低音域の共振周波数f0付近ではインピーダンスは10倍位になる。さらにインピーダンスは高音域では徐々に上昇する。
従って若者が好むfo付近ではまったく出力が出ないのである。ムリしてブーストしても原理的にはパワーは10分の1も入らない事になる。なんでこんな大事なことがシカトされているかが不思議である。
そこで大学生の時考えついたのが図2である。出力をスピーカーにつなぎ、スピーカーのグラウンドと本来のグラウンドの間に抵抗Roを入れる。私の場合は手持ちのメインアンプを改造して2オームを入れた。そして、帰還抵抗をこの抵抗のホット側につないだ。もちろん帰還抵抗も2分の1にする必要がある。
回路的には一定値の純抵抗の電圧が帰還されるわけだから、アンプは電流帰還になるわけだ。これでスピーカーにつなぐと発振してアンプもスピーカーもパーとなるか、と思ったが大丈夫であった。おそらくRoを大きめにとったからであろう。
さて視聴すると確かに低音が出ている。しかし出力の抵抗は常にパワーの3分の1を喰っているおり、大きな音でならすと相当な熱量であった。音楽の出力がこんなに熱を出すとは思わなかった。またダンピングファクターが低下するので、思ったよりしまりの無い音であった。
もっとRoを小さくして帰還の比率を調節すれば良いのだろうが、そうすると発振しないように少し回路に細工がいる。またスピーカーの配線が切れれば糸の切れた凧のように制御不能のアンプとなる。結局一応の成果を収めたので元に戻した。
その後数年たつと、ヤマハがASTシステムというのを出していた。カタログによるとスピーカーを超伝導状態でドライブするとか、まるで詐欺のような説明だが、よく読むとスピーカーを定電流ドライブしているとある。さっそく適当なコンポを探していたボスをだましてASTのミニコンポを買わせた。さらに研究するとスピーカーにも細工があった。
ポートの長いバスレフスピーカーのキャビネットは、ヘルムホルツの共鳴器に例えられる。詳細は忘れたが、箱の容積、ポートの長さでポートの共振周波数が決まる。このシステムはアンプの定電流ドライブでfo付近でもスピーカーにパワーを押し込み、さらにスピーカーではヘルムホルツの共鳴器をfoにチューンさせてさらに低音を稼ぐ仕掛けであった。
ヤマハのミニコンポはボスの目を盗んで中のしかけを見ようと思ったら、家に持って帰られてしまって、正確な回路はわからずじまいであった。ヤマハは調子に乗ってASTシステムのアンプとスピーカーを次々に発売したが、商売的には大失敗であったようだ。
理由は簡単である。図2でわかるように、定電流ドライブの場合は負帰還回路とスピーカー回路が一体となっているため、ヤマハのAST規格のアンプとスピーカーでないと組あわせられない。しかも、スピーカーによって帰還回路の定数が異なるため、その部分がモジュールで交換するようになっていた。そのため、早い話音より趣味性や神話が優先するオーディオの世界では、たとえヤマハの金看板をもってしても売れなかったのである。
ヤマハのスピーカーも、ウエブを見る限り一時は全盛を極めたNS1000もカタログから落ちており、今では小さめのモニタータイプとスーパーウーハーだけになってしまっている。そうそう、ヤマハにはグランドピアノの響板構造をヒントに作った巨大な発泡スチロール製スピーカー、ナチュラルサウンド(NS)スピーカーというのがあって、我が家にも1台あった。ヤマハのスピーカーの頭にNSとつくのは、これに由来する型番なのである。
このようにオーディオの世界では、金の無い若者をひっかけるためにに次々に製品が登場するが、肝心な問題には目をつぶったままである。同じようにウーハーに帰還用コイルを巻いて、コーン紙の動きをコントロールするモーショナルフィードバックも時にシステムコンポやスーパーウーハーで見かけるが、メジャーにはなった試しがない。
ところでヘルムホルツの共鳴器であるが、自動車のマフラーの原理がこれであることをご存じだろうか。頭のいいメーカーは、マフラーのテイルパイプの部分をわざわざ長めに伸ばしている。これはヘルムホルツ共鳴器のポートを伸ばしたことと等価であり、マフラーの共鳴周波数を低域にのばす働きがある。これによって排気抵抗を上げずに耳さわりな高周波音を下げることができる。
ただ単にぶっといテイルパイプをつけるだけでは排気抵抗は下がらないのである。一見邪魔な長いテイルパイプがトータルで排気抵抗を減らしてくれるのである。その目で見ると、ぶっといテイルパイプはあまり賢く見えない。
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ワイドテレビのナゾ
巷にはワイドテレビというのがある。これが変な代物であることはご存知であろう。基本的には上下を切って、残りを横に伸ばすだけだから、情報量は普通のテレビより少ないのである。つまりわざわざお金を払って画像をロスしているわけだ。
ここで発想の転換も良いかもしれない。普通のテレビより情報量の増えた本当のワイドテレビをロハで作る方法がある。つまり通常見えないところまで見えるようにするわけだ。
ただしテレビセット内は高電圧がかかっており感電死の恐れがあるので、素人は手を出さないで欲しい。そのため敢えて細部は説明しない。
テレビのNTSC規格では走査線は525本あることになっている。しかし同期や帰線の都合があって実質約500本だが、さらに枠に隠れていて450本ほどしか写らない(オーバースキャン)。これを全て見せれば10%情報量が増える事になる。
方法は明らかであろう。垂直出力を少し絞れば良い。画面の上の方に同期信号が見えるかどうか、という程度に設定する。あるいは同期信号を少し出してその部分を黒テープで隠す。
しかしこれでは上下に詰まった画像になってしまい、インチキなワイドテレビとおんなじである。従って水平出力も絞らなければいけない。水平方向は可変抵抗器では無くコイルのコアを追い込む必要がある(最近のセットにはコアが無く可変抵抗器の物もある)。
そうしてみると、画面の印象がずいぶん違ってくる。情報量にして1.1x1.1=1.21と約20%アップである。まず思わぬ余計な物が写る。例えばニュースではテーブルの下の人の足が余計に見えたり、電線類が見えたりする。文字のテロップもずいぶん内側に見える。
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続エアコンのナゾ(インバーター故障編)
エアコンが故障だ。急に気温が上昇したので冷房を始動したところまったく冷えない。室内外ともファンは回っているが、室外機のコンプレッサーの音がしない。そうこうする内に点検ランプが点滅しだした。これは本格的な故障だ。
エアコンに対する私の考えは
に書いたとおり、そこらのエアコンは単なる加熱冷却装置に過ぎない。エアコンディショナーと称するためには換気と湿度調節機能が必要だと思う。例の目の付け所が良いS社が”五空”という換気、湿度調節機能を持ったエアコンを売っている。しかし、いままで家にやってきたS社のエアコンはどれも造りが良くないと書いた。
おそらく書いたのがいけなかったのだろう。エアコンはS社の平成3年の型名AY-B25BとAU-B25BYである。早速S社を呼ぶと”これはかなりの故障です”とおっしゃる。出直してこられて交換した代物が写真のものである。
トランジスターアレイで型番はPQ15TM1Dと書いてある。流通コード2055760016、部品名MG15G6EL1-RH-TZ0013JBEのTransisitor、部品定価\6000というわけで、電子部品としては結構高価で超大型だ(手前の2SC372と大きさを比べて欲しい)。これはひょっとしてインバーターの中枢パワーディバイスが壊れたという事ではなかろうか。
うーーん。もうちょっと若いならS社に手紙でも書いて、重要部品がどうして壊れたのか聞きたいところだが、この機械を選んだ自分の眼力の無さがいけないのでやめた。やっぱりS社のエアコンはボロである。
このエアコンは平成3年から3回目の故障である。一回目は室内ファンのベアリング不良、二回目は室内機の水漏れであった。さらに頭が痛いのはこれと同じ型式のエアコンがもう一台ありこれもベアリング不良で交換しているのである。さらにもう1台のS社製エアコンも調子が悪い。
今や電子デバイスで評価の高い、目の付け所の良いS社の製品だから余計に残念な結果である。琵琶湖の近くの別のS社のエアコンに比べると、仕上げ、性能、振動、騒音、操作性、信頼性などすべての点で劣っている。
私が思うに、N本電気とかF通ゼネラルとかS社のようにハイテクな会社が、わざわざ赤字を出して、あるいは無理矢理OEMで家電品フルラインアップを作る必要があるのか?という事だ。全てが横並びのGENERAL ELECTRICの品揃えを目指しているが、米国本家GEも今やすべての家電を売っているわけでは無いのだ。
ところで前回ずいぶん悪く書いたS社のホームページだが、今見てもメニュー構造は悲劇的に悪い。しかし技術ライブラリーはなかなか良いことは書いておかないと不公平かも知れない。
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自動車純正部品のナゾ
自動車の部品には純正品と、非純正品がある。世の常識としては純正品がおおむね妥当な性能を持つと考えられるが、中には性能が疑問な純正品もある。
その筆頭はダンパーであろう。国産車のダンパーは昔から耐久性が無い事で有名で、寿命は1万キロ程度であろうか。どうして耐久性が無いのであろうか?
ダンパーといっても単筒式と複筒式がある。単筒式というのは全くの水鉄砲でそのピストン部分に穴(オリフィス)があり、そこがエネルギーを吸収する。オリフィスは通常2個あり、それぞれに弁がついていて、伸びと縮みではダンパーの硬さが異なる。通常縮みは弱く、伸びは強くなっている。複筒式というのはダンパーに同軸状に内外2つの部屋があり、ピストンだけでなくその底の部分がオリフィスになっていて、ダンパー内の体積変動を吸収するようになっている。単筒式は放熱が良いがピストンやオイルシールに精度が要求され、後輪用に使われることが多い。複筒式は放熱が悪く泡が立ちやすいが、ストラット式サスとの機械的相性が良いので前輪に使われる。また減衰力を可変にしやすい。
さてダンパーが抜けるというのはどういう状態だろうか。ダンパーが動作すると作動油中に泡が生じるためオリフィスの抵抗力が低下するのである。これを防ぐためにガスダンパーというのがある。これは単筒式の端にフリーピストンを介してガス室がある。ガスによりオイルに圧力がかかっているので泡を生じにくく耐久性がある。構造のせいか倒立で使うことも多いようだ。後輪用には使いやすいが、前輪用には構造上やや使いにくく、減衰力可変にしにくい(前輪用倒立ガスショックが無いわけでは無いが。たとえばこれとか)。
さて巷にはスポーツ走行用にさまざまなダンパーがある。国産ならTキコ、Kヤバ、Sョーワとかだが、なぜか純正品よりはるかに耐久性がある。おそらくピストンやバルブの細工、作動油に違いがあるのだろう。メーカは純正品とまったく同じなのが不思議だ。ガスショックの中にはピストンに円盤状の板を重ねてオリフィスを形成し、この板の重なり具合によってきわめて細かいチューニングされているものもある。スポーツ走行用は市価1万以上だが、純正品納入価格は一桁以上安いらしい。ある人は一本数千円と言うが、またとある人は数百円とも言う。
もともとオリフィスと弁と油という原始的な物でけっこうばらつきも大きいらしい。また初期のストロークが渋くなく縮みは軟らかめ、伸びはすこし堅めというのが理想的らしいが、安物では動き始めが渋く、縮みが突っ張った感じの上に、だらしなく伸びる代物に仕上がるとか。
しかし迷惑な話だ。最近ではエアクリーナーもブレーキパッドも数万キロ持つのに、純正ダンパーは1万キロしか持たない。さらに特にストラット式の前輪サスをバラすのは
April 30,1997 (Wed.)
サスペンション脱着のナゾ
にも書いたようにけっこう大変である。特に問題なのはエレキでダンパーの制御をやっている代物だ。これは前輪の複筒式の底に複数のオリフィスが仕込んである。ピストンのロッドの中央に細い軸があり、これを回転させて底のオリフィスを切り替えるのである。問題はこの手の形では縮み側と伸び側の設定を理想的にしにくいこと、よけいなメカニズムのために作動油の量が少なく耐久性に劣ること、故障が多い上に交換がやっかいで、値段もびっくりするほど高いなど、あまりほめられた物ではない。
ビジネス用バイクなどはちゃんとダンパー下部に作動油交換用のネジがある。これをはずして作動油をぬき、ピストンロッド上端から作動油を注入できるのだ。どうして乗用車のがそうなっていないのかが不思議である。ダンパーの硬さも作動油の種類で変えられるのに、である。
話が脱線するが、このような筒型ダンパー以外にも、ロータリダンパーという珍種がある。ぜひ一度見ておいて欲しい。
もうひとつ確実に純正品が劣るものとして、カーステレオの類がある。以前Nショナルブランドの純正品とTクニクスブランドの物をバラして比べた事がある。ケースがブランド物のほうが放熱性良く上等である。しかしICなどの中身には大差なく、同じような部品で組んであるが、気のせいかブランド品のほうがケミコンが上等なようにも見えるが、大きな音質の差を生じるとは思えない。もっとも値段の方は一桁安いといわれている。市販品が数万なら、純正は数千円?
さてスピーカーだが、例えばトヨタ純正のインダッシュスピーカーはPイオニア製4オーム30Wの10cm径で思ったより上等な代物だ。一方Kンウッド社製リプレース用は4オーム40W用である。スペック上は大差無いが純正品が一個250グラムなのに対しブランド物は450グラムと倍近く重く、マグネットで大差がついている。
また純正のものはスピーカーケーブルが驚く位細い。カーステレオのアンプは
April 18,1997 (Fri.)
カーステレオのナゾ
に書いたが、BTL接続で出力を稼いでいる。スピーカーのインピーダンスが4オームでも、2個のアンプから逆位相出力をスピーカー両端に加えるので、スピーカーコイルの中点が仮想のグラウンドになるため、等価負荷インピーダンスは2オームになる。車の13.8Vから出力を稼ぐためにスピーカーには大電流が流れるので、しょぼい電線の抵抗はまんま損失になる。
以上の点を考慮すると、カーステレオのグレードアップの順番が見えてくる。純正スピーカーをブランド品のリプレース用と交換しスピーカーコードを太くするだけで、かなり音質は改善するであろう。アンプの部分で大差がつくとは思えない。もちろんスピーカー周りはビビリ音が出ない程度の対策は必要だろうが、吸音材や目張り、アスファルトやゴムシートの類は凝り出すとキリが無いし、一種宗教的な趣もあるので、適当なところで妥協するのが賢いかも知れない。
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