Dec. 31:すぐ壊れる電脳一眼レフのナゾ・その2(露見編)
Dec. 24:投資格付の信用度のナゾ(懲りない面々編)
Dec. 17:値段の無い広告のナゾ(平成闇鍋料金と闇鍋ファンド編)
Dec. 10:スピーカーはフルレンジに回帰するのか?(BOSE201、301に学ぶ編)
Dec. 3:怪しい時計分解掃除のナゾ(リューズ修理編)
December 31
●すぐ壊れる電脳一眼レフのナゾ・その2(露見編)
以前、
で、儚い構造の一眼レフを取り上げたが、多くのレスポンスが寄せられた。なかでも
”ピントグラスもペンタプリズムとともにプラスティック枠に固定されているが、特に仕上げ加工の形跡が無い。つまり自動焦点カメラではフィルム面に合わせてラインセンサーの位置が調節されていれば十分であって、フイルム面やピントグラス面の物理的な精度はあまり必要は無いのである。”
との記載に対して”ホント?もしそうなら、私がファインダーで一生懸命合わせたピントはどうしてくれるの!”といったようなレスポンスが寄せられた。Webmasterが複数のサンプルをバラした限り、そうとしか思えないのである。
実際フィルムランナーとミラーボックスの結合は緩やかだが、それ以上にミラーボックスとピントグラスの結合は緩やかだった。機械的にはピントグラスはミラーボックスよりむしろフレキシブル基盤の方に密に結合している。Webmasterの目は節穴なのだろうか。
それが本当かウソか、答えは高級デジカメの不具合情報の方から勝手にやって来た。記載によると、
不具合の内容
”マニュアル・フォーカスでの撮影時ファインダー上ではピントが合っているが、記録画像のピントが甘くなる。オート・フォーカス・モードでの撮影時オート・フォーカスで合焦の合図はするが、ファインダーを通して見える像が少しぼけて見える。記録画像は正確なピントになっている。”
なのだそうである。余計な説明は蛇足と言うべきだろう。この製品の定価が20万円もするセミプロユースの高級機であることを考えると、安物電脳一眼レフの実情は想像にかたくない。もう一点がアルカリ電池を取り巻く構造の問題だ。Webmasterは、
”電池室とカメラ内部は隔絶されていないので、漏液=全損である。アル カリ電池に頼るなら電池室をカメラ内部と物理的に隔絶し、電池からの有毒ガスを逃がす通気 穴を設けるべきである。”
と指摘した。これに対する答えも向こうから新聞に載ってやって来た。カメラは目と至近距離なので破裂すると危険であるにもかかわらず、重要な事項がホームページには載っていない。このメーカーは今一つ昔からディスクロージャーが悪く、ホームページは自己主張のためにあると考えているようだ。それは、
不具合の内容
”ヘビーデューティーカメラの一部において、新しいアルカリ電池と古いアルカリ電池を混用した時、電池から水素ガスが放出されることがあり、そのガスがカメラ内部の空気と混合し、ストロボ使用時にカメラ裏蓋が破裂音を伴ないはずれる可能性のあることが判明しました。”
現代のカメラでは電池室とカメラ内部が隔壁されていない。電池から出たガスは早晩内部の接点や光学部品を劣化させるだけでなく、気密性の高いカメラではストロボから引火して破裂するのである。やはり足らない配慮は早晩露見するものである。Webmasterはシネルギー効果の不思議な縁(えにし)を強く感じるのである。
予想以上にデジカメの普及は急速である。特に以前はカラープリンターだけであった年賀状特需の一部はデジカメにも向かうだろう。結晶化が進行する銀塩カメラのなかで、そのコンセプトと構造に疑問が残る安物電脳一眼カメラの結晶化は一際激しいと考えられる。
December 24
●投資格付の信用度のナゾ(懲りない面々編)
以前投資格付を取り上げたのは、
であった。そこでインセンティブ産業への関心が書かれている。マーケットがどうなるかは誰も予想することは出来ないが、予想を商売にしている人たちは存在する。その中で一般的に信用度が高いのが債券の格付けだろう。
有名なところではR&I、JCR、Standard & Poors、Moody'sなどがある。
昨今市場を騒がせた某インセンティブ企業の場合(yahooからのリンク表示)、その格付はJCRとR&Iのインターネット発表資料によると
JCR R&I ------------------------------------------------------ 1999.1 A- 1999.8 BBB+ 2000.4 BBB BBB- 2000.6 BB BB- ------------------------------------------------------と変化していて、このあたりが格付の限界を示している。財務資料や目論見書ばかり読むのでなく、一度でも店先に顧客として訪問してみれば、どういう商売をやっていて、その行く末がどうなるかは直ぐ解るハズだが。
債券格付より信用度が落ちるのが、大手証券会社の名前を冠した投資情報会社の企業格付だろう。系列特有の事情だけでなく、それ以前にアナリストの中には商売の実地調査が不得意の人もいるようである。
企業によって伝統的に業績見込みが甘い会社と渋い会社がある。事実過去の業績見込み変更が下方修正ばかり、あるいは上方修正ばかりの企業がある。業績見込みの信用度の評価は難しいが、目安として
業績見込み信用指数(PAT PEND.)=下方修正の回数/修正の全回数
を提案したい。下手なテクニカル解析より当たると思う。ぜひ四季報に欲しい指数と思うがどうだろう。
世の中には業績見込みが常に楽観的な世界的企業もある。ここに大手投資情報会社のアナリストが40%もの楽観的な上方修正に振り回されたシミュレーションがある。データは都合により加工してあり、特定の企業を意味しているわけでは無い。
予想 会社 日付 目標価 連結 予連 risk 格付 推奨 株価 ---------------------------------------------------------------------- 1999.10 1400 - 高 中立 削除 1400 2000.3 2300 400 400 中 op 1700 2000.6 3000 400 中 買い 採用 2400(株価最高値) 2000.8 3400 600 570 中 買い 2000(会社上方修正) 2000.10 3000 600 中 買い 1800 2000.11 2200 480 中 op 1600 2000.12 2200 480 570 中 op 削除 1500 2001.2 弱含 480 460 中 op 1400(会社下方修正) ---------------------------------------------------------------------- op:outperformこのシミュレーションでは目標株価と最高値の差は約40%にも達する。最期になってアナリストは会社の業績見込みは楽観的とコメントしているが、楽観的だったのはアナリストだったようだ。
証券取引法には株価操縦の禁止という項目がある。日本版SECはインターネットにおける株価操縦を調査するために、インターネットサーフデイを世界同時に行ったそうである。
検索エンジンで調査した所、オフショアファンドを含めた高利回り商品、元利保証商品の勧誘に関するもの(12件)、未公開株、新規公開株を将来値上がりするなどとして勧誘しているもの(7)、個別銘柄に関する噂や個別銘柄の推奨など、風説の流布等の疑いがあるもの(6件)が見つかったという。実際にはこんな件数では済まないが、得体の知れないページがそれほどマーケットに影響を及ぼすとは思えない。
とすると、大手の名前を冠した投資情報会社の格付(レーティング)はどうだろうか。場合によっては上手に商売の材料に使うことができる。例えば格付情報を一般より早く知ることができれば先回りして動いて、後で下々の投資家にハメ込むことも不可能では無い。レーティングの影響度は、インターネット検索で見つかる得体の知れないページより遙かに大きい。テレビの宣伝ではないが、
”やっぱりノルマ(に喰われたん)ですね”
と言うわけで、IT時代もぜんぜん変わっていない。マーケットは信用を失い、せっかく環流しかけた個人資金も闇鍋ファンドに来ず、公社債に逃げてしまう。このままでは健全なる401kの導入は難しいように思う。
December 17
●値段の無い広告のナゾ(平成闇鍋電話と闇鍋ファンド編)
Webmasterは新聞や雑誌を風呂で読むことが多い。仔細に見ると最近の広告の殆どにホームページと電子メイルのアドレスが載っている。懸賞でもない限り広告を見た後にインターネットでアクセスする人が多いとは思えないが、数年前には無かった要素であることは確かだ。
インターネット時代に常識という陳腐な言葉を使ってもどれほどのものかとは思う。常識は作られるものである。常識とは何であるのかを、それに関係するホームページのサイト数やコンテンツが決める時代がくるのかもしれない。
いつものように風呂で雑誌を眺めていると、常識とは何かを考えされられる広告があった。世の中にサービスを売るからには当然代価があるハズで、それが電話などの公共料金であれば、オープンプライスは考えられず、代価が明記されているハズだとWebmasterは考えていた。しかしそれがユーザーにとっては常識かもしれないが、この国の電話会社には常識で無いようである。
問題の広告だが、文面には”PHSはもちろん、携帯電話でもご利用になります。パソコンなどに接続し、様々なモバイルシーンで快適にインターネットを楽しめます。”とある。そして”お申し込み不要、月額基本料無料、つまりネットサーフィンが通信料だけでOK!"と続く。
どうやら電話料金もプロバイダ料金も通信料にコミコミらしい。とすると通信料はどうなるのか?パケット換算か?接続時間なのか?いくらなのか気になる。だがこの2ページの広告には価格が無い。Webmasterは湯気か老眼で見落としたかと思ったのだが、やっぱり無かった。確かにユーザーを数分間広告にくぎ付けしたという意味では広告は成功かもしれないが、割り切れないのである。
もうひとつ不思議な広告がある。それは某ノルマ証券会社の話題の大型投信である。オープン型の投信の広告では基準価格のグラフが載っているのが常識だとWebmatserは信じていたが、話題の大型投信の広告には価格もグラフも見かけない。申込み手数料3%、信託手数料年1.9%と高いテラ銭をとるわりには随分な仕打ちである。インターネットが利用できればグラフを拝めないことも無いが、ハデなテレビCMの割にはお寒い状況である。
さすがに決算広告にはグラフが載るだろうと待っていた結果が2番目のグラフである。この手のグラフにはTOPIXとの比較が付き物と思っていたWebmasterの常識は再度粉砕された。広告にはTOPIXをベンチマークとするとはっきり書いてあるのだが。もちろん運用がTOPIXを下回り数千億の穴を掘っていることは周知である。
ところで、話題の大型投信と書いたのは、総資産の目減り(現在総資産約8800億円)で一兆円ファンドと書けなくなったからである。さらにこのグラフは座標軸の設定が不自然で、基準価格変動ダイナミックレンジ(PAT PEND.)が小さい。
Webmasterが違和感を感じないサンプルが3番目のもので、出所は某ダイヤ証券である。まず変動ダイナミックレンジが大きく表示されている。そもそもグラフは変動を見やすくするためだから当然であろう。当然TOPIXとの比較や収益分配前後の価格など抜かりは無い。とすると、Webmasterが基準価格のグラフに求める常識はダイヤ証券の常識と大きく矛盾しないようである。
巷では郵貯の受け皿として投信の売り込みが盛んだが、わが国では投信の成績を評価するシステムが殆ど整備されていない、いや、投信をめぐる情報開示は明らかに退化している。例をあげると、以前(社)証券投資信託協会では投信成績とそのランキングが載っていた。それが知らない内に無くなって全体額の公表だけになっている。納得できる理由を聞きたいものである
もちろん投信は短期的な成績で判断するべきでは無いが、価格もグラフも無いようでは判断のしようが無い。基準価格が押しているのは過去の顧客にとって迷惑かも知れないが、逆に手頃な値段だから買いたいと考える人も出てくるだろう。つまり低い基準価格は隠すべきではなく、逆に新しい客を呼び込むためにも周知させる価値がある。あるいはノルマ証券は投信において新しい常識を創り出そうとしているのだろうか。
情報開示の乏しい投資信託は闇鍋ファンド(PAT. PEND.)と呼ぶのが適当かも知れない。
December 10
●スピーカーはフルレンジに回帰するのか?(BOSE201、301に学ぶ編)
さて予告の通り、BOSEの201と301からその音作りを学ぶことにする。思えばWebmasterがBOSE301と初対面したのは殆ど20年前のことであるそれまでは”BOSEは凄い....”、と聞いていたので、出てくる音には興味があった。そのころの301はツイーターが一本で、その前に可動性のハネがついていた。
いったいどういう音が出るのか。その突飛なルックスとは裏腹に素直な音だったので、再度驚いた。実は心の中では究極のドンシャリを期待したからである。さらにハネを動かすと明らかに音場が変化するが、いったいどのポジションがベストなのかは解らなかった。見かけと異なる音に随分戸惑ったのである。
中身がどうなっているかは、他人の持ち物なので開ける訳にいかなかった。エッジがダメになって貰いうけるつもりだったのだが、手違いで知らない内に廃棄されていしまい中身がわからないままで終わってしまった。その20年間のナゾがついに解き明かされたのである。
最新のBOSE301mkIIにはツイータが2本有り、それぞれは前後に対向しつつ微妙にねじれている。左右のツイーターを外側にして天井に吊るのが本来の使い方らしい。
こいつを無響室に入れてみても良いのだが、それでは本来の価値は失われてしまうだろう。そこで、夫々のユニットから至近距離で特性を測ってみた。
まず最上段が口径20cmのウーハー直前の特性だが、中音域が3KHz位までフラットに伸びており、高音域はそこから次第に低下しているが、カットオフははっきりしない。どうもウーハーと言うよりは20cmのフルレンジの特性に近い。なお60Hzのピークは測定系のノイズである。
次に中段が口径約7cmのツイーター寸前の特性である。このツイーターはかなりの広帯域で、中音域は1KHz付近まで伸びている。その代わり15KHz以上の高音域はあまり伸びておらず、カットオフもさほど急峻でない。ちょうどPAで使う大口径ホーンスコーカーのような特性である。
そして最下段がバスレフポートからの音である。ポートの共振周波数はさほど低く引っ張っておらず(ノイズピークがじゃましているが)60-70Hz前後を狙っているように見える。付帯音があるが、ポートが側面に開いているので聴感上あまり気にならない。新型の301AVはスリット式バスレフになっていて、このあたりが対策されているようだ。
全般的な音は、やはり20年前の301と同じく突飛なルックスに反して実に素直な音である。必要にして十分なレンジの中でフラットな特性と音場の広がりを重視したものだ。中身を見てみよう。ウーハーのコーンは中心部が厚く周辺になるに従ってかなり薄くなっていてフルレンジ的である。
20cmフルレンジでは高域が苦しくなるので同心円状の溝(コルゲーション)で分割振動を狙うかダブルコーンとするのが一般的である。しかしこのユニットでは広帯域のツイーターが2基あるのでそこまで無理はしていない。ただフルレンジ的で中高域のレベルが高いためツイーターの負担は軽く、その分のエネルギーを周辺の音場生成に割いている。
その音から予想されるように、ツイーター用のコンデンサー(-6dB/oct)と抵抗以外にネットワークと呼べるようなものは入っていないのである。つまりBOSE301MkIIでは、20cmフルレンジで重要な音域をカバーし、不足する高音を補完と幅広い音場を生成するためにツイーターを付加したおり、他の製品とも一貫した音作りになっている。
そして16cmユニットからなるBOSE201の音もBOSEの基本に忠実である。その音は2wayスピーカー的な音でも無く、フルレンジ+ツイーター補完的でもない。ちょうど16cmダブルコーンスピーカー+幅広い音場と呼ぶべきであろう。
このスピーカーの構成は実に巧みである。16cmのユニットはシングルコーンのフルレンジに近い。やはりコルゲーションやダブルコーン付きのユニットほどでは無いが、中高域は301より伸びており、高音カットのインダクタンスは使われていない。
口径7cmのツイーターはバッフルより約7cm奥まった所にリスナーに向いて斜めに設置されているが、その前後が反対である。おそらくツイーターのこの位置と方向が位相的に16cmユニットと繋がりが良かったのだろう。ツイーターの主な仕事は背面に向かって間接音の音場を作ることである。
実際の作りは実物を見るのが一番だが、そのユニット配置にはパラゴン的な雰囲気もある。おそらく徹底した試聴で決められた構成なのだろう。そして全般的な音は意外や非常にバランスがとれたものである。レンジは必ずしも広くないが、長く聞いていて疲れないし、聴取位置を選ばない。
個人的には101、201、301の中で201が一番気に入った。201と301は良く似た音作りだが、自室に吊るなら201である。ただし重低音はスーパーウーハーで補うことになるが、そのマッチングは小口径ユニットを多用するBOSE501より良いと思う。写真のユニットのなかでオーラトーンとBOSE201から音が出ている確率が高いようである。残念ながらNS-10Mは不人気で置き台になっている。これも他の面子を見れば仕方無い。NS-10Mのユニットはともかく、頑丈なエンクロージャーは置き台として適している。
手もとのBOSEのユニットを見る限り、音作りは一貫している。つまり、重要な帯域は単一のユニットが担当し、高域の間接音にかなりのエネルギーを割くが、ワイドレンジは狙わない。必要があれば重低音はスーパーウーハーで補完する、というものである。そしてベストセラーの201と301は、奇抜なデザインとは裏腹にレンジと音場が広がったフルレンジとでも言うべき音なのであった。
Webmasterのオーディオ歴は小学3年生の時に自作アンプと16cmフルレンジのコーラル6A7で始まった。その後P社のマルチアンプシステムを経て、中学生の時には現状のオーディオでは原音の再生は不可能であることを悟りFE-163SRに回帰した。その後はAuratoneと出会って趣味としてのオーディオから引退している。201の音はおぼろげな記憶にある6A7の音に似ている。
現在国産メーカーはスピーカーから撤退している。一方、オーディオ屋には手ごろな価格で個性にあふれた外国製スピーカーが並んでいる。運命の分かれ目は一貫した音づくりの哲学が有るか無いかなのであろう。
December 3
●怪しい時計分解掃除のナゾ(リューズ修理編)
たいへんである。お気に入りの時計のリューズが故障である。リューズを回しても日付が変わるだけで、ゼンマイも巻けないし時間も修正できない。さっそくの修理だが、リューズ周りの故障は厄介である。
時計の裏蓋を開けるとムーブメントの裏面(時計学的には表面)が拝める。自動巻機構やテンプ、輪列の点検や注油は比較的簡単だが、リューズは表面(時計学的には裏面)の文字盤の裏にあるので、針や文字盤、そしてカレンダー機構をはずさないと到達できない。
ところが針や文字盤は取り扱いがデリケートでキズ付きやすい上に、やっかいなカレンダー機構がある。カレンダー機構はどうかすると輪列や自動巻よりも複雑だったりする。世に言う複雑時計の永久カレンダーや時報機構、レトログラードなどもすべて文字盤裏の機構なのである。ただ幸いなのは、この時計のムーブメントETA2783が
の安物両面スケルトン時計と系統が同じ事だろう。スケルトンを参考にしながら修理し、最悪修理不能の場合はムーブメントを入れ替えてしまえば良い。実際この時計はピンク色の超硬いケース(実際はベゼル)と飾りリング付きクリスタルが売りであって、ムーブはさして重要でない。まずこの時計のニセモノは存在しないだろうし、核兵器の直撃を受けてもタングステンカーバイトのケースだけは残るだろう。
この時計は分解掃除後も調子が悪いものを譲り受けたものである。しょっちゅう止まり、リューズの動きもぎこちなく、何となく全般的に油切れっぽいのである。このムーブがスイス製時計の50%を超えるモデルに採用されているありふれた系統であることを考えると、分解掃除後も調子が悪いというのは腑に落ちない。
修理の前にバンドをはずそうとするが、バネ棒が錆びついて動かない。通常分解掃除の時に金属ベルトも超音波洗浄くらいするはずだが、その形跡が無い。ベルトも超音波洗浄するとかなりの汚れがでてきた。CRCを吹いてバネ棒を何とかはずし、裏蓋をはずしてみると、間違い無く分解掃除の日付とサインのシールが貼ってある。
ムーブメントは価格を正当化するためか金メッキなど手が入っているが、間違い無く普及版ETAムーブメントの系統であり、注油も不足しているようだ。WebmasterはETAのムーブにどの程度油を差して良いかを判断する資料を持っていないが、スケルトンのSWATCHと見比べても明らかに注油不足である。大量生産されるSWATCHには不必要な注油がされるハズも無いので、それより油が少ないのは不思議である。
まずムーブをケースに固定している2枚の金属板とネジをはずすのだが、金属板もネジも錆びついている。錆びは紙ヤスリで簡単に取れる程度のものであるが、錆びが落としてないのもネジが交換されていないのも腑に落ちない。本当にこの機械は分解掃除されたのであろうか。
さてケースからムーブが外れた。キズをつけないように針をはずし、バネで固定されている文字盤をはずしたところが左下の写真である。
中央の時針の歯車から左の小さな歯車を経て左上の歯車に回転が伝わる。左上の歯車には一箇所トゲが出ており、それがカレンダーを日に一回繰り上げる。
その歯車の下は日付が節度感を持って繰りあがるためのシカケで、しょうも無いことの割に部品数が多い。Webmasterは別にカチャっと繰り上がらなくても気にならないが、価値観の問題なのだろう。目指すリューズ機構は右側だが、この日付環と繰り上げ機構をはずさないと到達できない。
カレンダー機構をはずしたのが右下の写真である。下のほうに三本水平に走る棒があるが、その中央のリターンレバーもしくはクラッチレバーと呼ばれるものが故障の原因である。これは本来もっと上方にあるハズである。
時計のリューズ機構(英語ではkey less workと呼ぶ)の下手なイラストが書いてある。イラストは適当にデフォルメしてある。リューズの真(巻真)の中枢側は断面が四角になっており、鼓型のClutchと呼ばれる歯車と噛み合っている。外側のWinding Pinionと呼ばれる歯車は巻真とは噛み合っておらずフリーな状態である。
通常のリューズを押し込んだ位置ではClutchはWinding Pinionと噛み合っている。Winding PinionからはCrown Wheel(丸穴車)を経てRatchet Wheelのゼンマイを巻き上げる。噛み合い部は三角形の歯型になっていて、一方向にしか噛み合わない。この状態でゼンマイが巻かれる。
リューズを外に引っ張るとSetting Leverが右側に引っ張られ、Return Leverが左側に動き、ClutchがIntermediate Wheelに噛み合う。この状態でリューズを回すと時刻が修正される。実際にはリューズを1段引き出すと、Date Wheel Driving Wheelに噛み合って日付が修正され、リューズを2段引き出すと時刻が修正されるようになっている。
今回の故障ではリターンレバーがClutchとWinding Pinionの間に挟まっており、一番ありふれた故障である。多くは巻真の潤滑不良のため、巻真を押した時にClutchも同時に内方に押し込まれてReturn Leverが外れてしまうことによる。これも最近分解掃除された時計には起こり難いことである。
この面にはテンプやゼンマイ(Barrel、香車)の受石もあるが、やはり油が無い。リューズ機構にも注油の形跡が無く、分解掃除を受けたにしては腑に落ちない。ムーブ自体はキレイで金属粉は全く見えず、ネジにもキズが殆ど無い。分解掃除すると必ずにある程度のキズがつくものなので、この点も不思議である。
どうもこの時計の場合も腑に落ちないことが多い。確かにムーブ自体はキレイで金属粉の汚れは全く無いのだが、油が少なくバンドのバネ棒やムーブ固定板が錆びているなど、理解に苦しむ点が多い。分解掃除が記載だけで実際全く行われていないにしては、ムーブがきれい過ぎる。可能性としては、
(1)丁寧に分解掃除されたが注油が適切にされなかった。
カレンダー機構などは下手に注油すると調子が悪くなるので、輪列だけにごく少量注油した可能性がある。しかしネジをキズつけないように丁寧な分解掃除できる技術者が、ちゃんと注油せずにバンドの手入れもしないことがあるだろうか。他に、
(2)機械はあまり分解せずに丸洗され、注油も最小限しかされていない。
これだと汚れが少ないわりにキズが少ない理由が説明できる。その後このムーブは順調に動いているので、あるいは丸洗い+注油だけでも充分なのかもしれない。いずれにせよ、この手のインチキ分解掃除の話は聞いていたが、実物を拝見したのははじめてである。ただし現代の自動巻きはデリケートなので、下手に分解修理するとかえって調子が悪くなる可能性もある。
現在の精度は日差15秒前後の進みであるが、国産の安物自動巻きと比べ姿勢差がかなり大きい。最初は注油の問題かと思ったが、ヒゲゼンマイ(アオリ)が関係しているのだろう。スイスの安物に比べると安物の国産自動巻はどれも良く出来ている。手元の新旧のセヰコーやヲリエントはどれも質素な外見の割に精度が良く、姿勢差も小さい。カレンダーも確実だし、貧弱だが有効なパッキングのおかげで水が入らない。強いて弱点をあげると、自動巻のローターの軸受けが弱いいことぐらいある。
以前も書いたように、腕時計はもはや最新最高のクオーツ時計を持ってしても精度のチャンピオンではない。基地局から時刻が修正される携帯電話の方がはるかに精度が優れるのである。街で腕時計のメーカーを調査したら、上位は携帯電話であったという。
現在市場にある国産自動巻の基本設計は20年以上前の設計である。国産メーカーの技術をもってすれば、スイス製よりはるかに魅力的な機械式時計を新造することは可能だろう。ただし、それなりの機械にはそれなりの値札を付けることが重要である。国産品でも高品質高価格を受け入れるように市場は成熟していると考える。
個人的にはカリスマ的モデルとして、トゥールビヨン付きセヰコー”富士”(仮称、手巻き両面スケルトン、精度はキングセイコーより悪くても許す)を300万円也くらいで期待したい。