今日の必ずトクする一言
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●December 2001
□Dec. 30:電動ポット腸閉塞のナゾ
□Dec. 26:車載CDチェンジャーお掃除のナゾ
□Dec. 23:電脳->紙のインタフェースのナゾ・その3(出版編)
□Dec. 16:イージス鑑命名のナゾ
□Dec. 9:伸びる飛行機DC-9のナゾ
□Dec. 2:車ガラスのコランダム磨きのナゾ

Dec 30
 ●電動ポット腸閉塞のナゾ

深夜帰宅したWebmasterへの下命は電動ポットの修理であった。翌朝までに直せと言われてみて、そう言えばここ数年台所でヤカンを見かけない。お湯は沸くが注湯ボタンを押しても電動ポンプの音がしないところをみると、ポンプがやられているようである。これは、

   ●電気ポットのナゾ

のトピックのころにやって来た。それから4年になるのでそろそろ故障する頃である。さっそく修理だ。まず回転リングをはずして裏蓋のネジをはずすが、以前の、

   ●平成電気ポット修理のナゾ(ウォッチタイマーとVAX-780編)

に登場したエアポットより底の防水が厳重になっている。エアポットの基板には下側のカバーが無く下から飛沫を浴びる設計だった。今回のはプラスティック製の底板から2cm程浮いた所に底と一体成形のカバーが付いている。基板は上下からカバーに挟まれていて飛沫を浴びないようになっている。基板のハンダ付けは丁寧で、部品が行儀良く並んでいる。NIES製品のように整列がバラバラでマニキュアで固定されているようなことは無い。

まず配線の取り回しを撮影しておく。車のエンジンもそうだが、発熱する機械の配線の取り回しには独特なノウハウがあるから、オリジナルと全く同じにしておくのが無難だ。ポンプを分解したのが下の写真である。部品には劣化が見られず、Oリングも良好な状態である。

ポンプの材質は確認出来なかったが、おそらくガラス繊維で強化したポリアミド樹脂(ナイロン66)だろう。ポリアセタール(ジュラコン)やPPE(ノリル)ではとても100度のお湯に数年間は耐えられない。ジョイントはかなり厚手のシリコンラバーで劣化は見られなかった。調理器具なので材質のチョイスもデリケートなところである。

ポンプには一見異常が無いが、ポットの底の網にはカルシウム分が大量に沈着していた。そう言えばこのポットに掃除用のクエン酸がついてきたが、一度も使わずに行方不明になっていた。説明書に大書してある通り、電動ポットはクエン酸や酢で定期的に掃除する必要がある。

網を掃除して配線を元通りにして組み上げると、ポンプはまた元気に回りだした。どうやら脱落したカルシウム片がポンプのローターに噛みこんでいたようである。ポンプの状態から考えるとあと数年は持ちそうだが、究極的には軸のパッキングの状態で寿命が決まるようだ。

以前電動ポットは空気圧式のポットより寿命が短いだろうと書いたが、どうやら正しく無かったようである。空気圧式の場合はパッキングが痛んで気密性が悪くなるとお湯が出なくなるが、そのころには樹脂類もかなり劣化している。しかし電動ポットはパッキング類が劣化してもポンプが動く限りお湯が出るので、ポンプが製品の寿命を決めることになる。

Webmasterが感心したのはポンプをはじめとして設計、材質、基板の配置や電線の取り回しが非常に良く考えられていたことだ。まるでカローラのエンジンルームのように、細かいところまでエンジニアリングが行きわたっている。やはり故障の少ない機械は一朝一夕にして出来上がるものでは無い。

石油ファンヒーターもそうだが、この手のメカトロ製品を作らせたら日本の右に出るものは無い。不景気で自信喪失気味の日本の製造業であるが、基本的なメカトロのテクノロジーはやはり抜群のものがある、と感じさせた電動ポットであった。

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Dec 26
 ●車載CDチェンジャーお掃除のナゾ

ひょんな事でWebmasterの手元に故障した$ONY社製車載CDチェンジャーがやってきた。以前一度修理に出してヘッドユニットをうん万円だして交換したが、またしばらくして不調になったととのこと。症状としてはCDをロードするが演奏を始めずエラーになるという。

CDのジッタは本ページで取り上げたが、修理は取り上げていない。というのはCDの故障の大半は簡単な掃除と給脂で解決するから、あえてトピックに挙げるほどのことは無いと思ったからである。しかしCDチェンジャーの修理に大枚を払った話は少なくない。どうやら現代日本人は不景気な時代にも自分の手を動かすのが億劫なようだが、他人に頼めばワークシェアリングとして大枚を払うのは当然である。

一つにはハイテク機器をいじることへの抵抗があると思う。しかし今時CDラジカセが1万円以下であり、もはやハイテクの名には値しない。後述する2カ所を手当すればまず90%以上はなおるものである。CDチェンジャーに払う大枚でコンプレッサーやオルタネーターのリビルト品を手当すれば車も長もちするだろう。

もう一つはCDチェンジャーの仕様が各社バラバラで汎用性が無いことである。特に純正品はディーラーの儲けの最後の砦なのか、そこいらの店で売っているモノがつながらないようになっている。もちろんFM電波を飛ばす方法はあるが、音質や操作の問題がある。結局同一メーカーのカーステレオとCDチェンジャーをペアで新調することになり、地球リソースの無駄である。

さて早速CDチェンジャーを取り外して分解を始めよう。まず気付いたのは筐体の密閉性が甘く、そこいら中隙間だらけな事である。CD演奏は1ワット程度と大した熱を発生しないから、密閉性を上げても問題無いハズである。これではメカが早晩ホコリまみれになる。

写真はヘッドユニットである。CDチェンジャーはCDマガジンからシリコンゴムのローラーでCDを装填する機構以外はラジカセと大差ない。最初にチェックするのはレンズだ。これをイソプロピルアルコールで掃除する。今回はVHSの湿式ヘッドクリーナー付属のものを使った。

これを綿棒にたっぷり付けてレンズを掃除する。乾いた状態でこするとキズが付くので、たっぷり目にして二度掃除する。少々レンズ面からあふれてアクチュエーターに入ってもさしたる問題は生じない。後は1時間ほど乾かすだけである。CDをロードするが認識できないエラーは殆どがコレである。

次にチェックするのはピックアップが乗っているソリ(スレッド)の滑り具合である。CDの内外方向のトラッキング機構はヘッドアクチュエーターとスレッドの2段階になっている。CDがトラックからはずれないようにするには、トラックを挟んで内外に位置したフォトダイオードの差信号であるトラッキングエラー信号(TE)をゼロに保つようにアクチュエーターの電磁石をコントロールするのである。

しかしこの機構のストロークは2,3ミリしか無いので、それより大きいズレはアクチュエーターコントロール信号の直流成分を使ってスレッドサーボを駆動する。この機構はおおざっぱで良いので安物にはギア式もあるが、車載品はガタ(バックラッシュ)の少ないスクリューねじ式が多い。

通常スクリューねじにはたっぷりグリースが塗られていることが多いが、ピックアップが乗っているもう片方のサポート側のグリースが固化することが多い。この場合、しばらく聞いていると音が飛ぶ症状がでる。サポートは鉄の棒だったり単なるプラスティック面だったりするが、この部分にツマ楊枝でモリブデングリースをごくごくわずか補給しておく。スクリューねじにも少し給脂しておく。

最後はCDのローディング機構の摺動部やギアにモリブデングリースを補給するが、もともとグリースの跡がある部分以外に給脂しないことが重要だ。素人の失敗の多くは給脂しすぎで余計な所に油が付くことなので、自信が無い向きはやめておいた方が良い。あとはCDをロードする白いゴムローラーをケバの無い布にイソプロピルアルコールをつけて掃除すれば完了である。

振動で音が飛ぶ場合は、内部機構を吊っているバネもチェックしておいた方が良い。多くは水平設置と垂直設置でバネの向きを変えるシカケがあるので、設定を確かめておく。もともと振動に弱い機器なので、車体にがっちりネジ止めするよりはマジックテープ固定の方が良いようだ。さらに凝り性の方は、筐体の隙間を塞ぐと良いだろう。

家庭用のCDプレーヤーも同様の掃除と給脂で直ることが多い。以前”涅槃MOドライブ修理のナゾ(写真)”で登場したように、CDに限らず光円盤装置のトラブルの大半はレンズの汚れである。そもそもレンズが上を向いている設計が問題だが、たとえ縦に置いてもプラスティックのレンズが帯電してホコリを吸いよせるだろう。ぜひメーカーには帯電しないシカケを考えて貰いたいモノである。メーカーによってはロードの度にブラシで掃除するシカケのものもある。

しかし、雇用を確保するにはわざと隙間を開けておいて、自分で何もしないユーザーに出費していただく方が日本の経済にとっては良いのかも知れない。ご自分の時給と修理の工賃とじっくり比較の上、興味のある方はトライしてみて欲しい。

追加

品質に何かと問題あるM下のCDチェンジャーには、2年ほどの使用でピックアップレンズの青いコーティングが剥離するものがあり掃除しても無駄である。代替品は他社を選ぶべきである。

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Dec 23
 ●電脳->紙のインタフェースのナゾ・その3(出版編)

本ページのコンテンツの一部がCQ出版社から11月29日に出版(ISBN 4-7898-2011-4)される。今回は2000年11月までのパソコン、携帯電話、インターネットに関するコンテンツである。

写真のように336ページはかなりのボリュームで、文もかなり詰まっているので、”まったり”としたと言うよりは”こってり”という感じである。コンテンツがここまで成長したのも皆様のおかげである。思えばなんどもやめようかと思った度に、励ましの言葉をいただいた。改めて感謝したい。

これを税込1995円に納めるのは困難だった。これはCQ BOOKS シリーズとして発行されるが、同シリーズの他の本は定価2000弱で200ページ前後が普通なので、50%程度コンテンツが多い。

担当者はかなり苦心されたようで、一部のトレースは担当者自ら作成されたそうである。業界では制作費が文字の加工工程数に比例するので、損益分岐点がかなり高くなった。それでも定価を抑えたのは、より多くの読者に届けたいということのようである。初版が苦しくても重版できれば、この定価でも採算に乗ってくるだろう。

本ページのコンテンツには今となっては散漫な部分も見受けられる。ネット上には多くの日記が存在するが、古いコンテンツはニュース性という面でどうしてもおもしろさが損なわれる。Webmasterがそう感じた部分はバッサリ削除して読みやすさと紙リソースの節約をはかった。

もう一つは一覧性の問題である。いまやブロードバンドに無線LANを組み合わせれば、ノートパソコンを持ち歩きながらトイレでもベッドでもコンテンツを読むことは可能だが、やはり本のように気軽にはいかない。ましては電車の中でノートパソコンを使うのは現実的でない。

本だと持ち運びが簡単だ。パラパラめくって適当な所から読み始めることが可能だし、しおりを挟んでおけばいつでも再開できる。またネットになじみのない人たちにも読んでいただける。もし読者の方々の様々なリソースが節約できれば、トータルで消費した紙のリソースの埋め合わせにもなる。

サーバーの問題もある。本ページはドメインtomoya.comを提供するサーバー、メインサーバー(bekkoame)、ミラーサーバー(InterQ)、掲示板サーバー(2台)、ログサーバーなどからなっている。多重化の理由はトラフィックとクラッカー対策だが、コンテンツが紙になっていればサーバーが落ちていてもよいのではないか。そうすれば管理も軽くなる。

ただしホームページのコンテンツが集積される過程をご覧になった方々、また様々なレスポンスをいただいた方で初版に興味のある方々には、ホームページ上で通常より早く案内する許可を出版社よりいただいた。

今のところ取り次ぎにはかなりの予約があり、正式な出版日までには半数以上が手当済みになりそうである。従って全国の書店に出回る数はかなりが限られる見込みだ。従って、本屋にある程度出回るには少し時間をいただくことになりそうである。

さてこのサイトの将来についても考えなければならない。今まで陳腐化しないコンテンツを心がけてきた。ニュースでコンテンツを埋めるのは簡単だが寿命が短くなる。コンテンツのネタはあるが、いよいよ更新のための時間リソースが払底してきた。ネタを厳選するためにも、時々更新が滞ることがあるのを、予めご容赦願いたい。

従って今後の更新はさらに不規則になる。またサイトの構造もこのままで良いのか考えているところだ。お手本となるべき官庁、M$や大和事務機なども頻繁なリンク切れを繰り返しており、未だ大量のコンテンツを上手に管理できるサイト構築に成功していない

これには、まったく新しいサイト構造とするか、あるいは努力を放擲してナレッジベースに徹する考え方がある。現実的には本サイトの内容は主要検索エンジンでまず引っかかるので、以前提供していた独自の検索機能をやめている。

過去このサイトはコンテンツのリンク切れが無いようにしている。それはコンテンツが常に経時的なメニュー構造で必ず辿れ、また今後も同じ形式で集積されていくことが重要だと考えるからである。情報の検索軸はやはり時間が唯一絶対なのである。

とすれば、このサイトは今後ネット上のナレッジベースとして縮退してもかまわないのではないか。現代のデーターベースはクライアントアンドサーバー構造になっているが、この概念をネット上に延長して本ページ=サーバー、主要検索エンジン=クライアントとする考え方もなりたつ。その場合個々のサイトが凝ったメニューを備える必要が無い。

従って、多くの方々の手元に本というリソースとして残っていれば、必ずしもこのサイトは頻繁に更新せずナレッジベースに縮退していってもさほど迷惑をかけないのでは、という考え方に傾いている今日このごろである。

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Dec 16
 ●イージス鑑命名のナゾ

インド洋派遣の是非について議論が進んでいるイージス艦(DDG)は、高度のミサイル誘導装備、電子通信装備と旗艦機能を備えた船である。(海上自衛隊提供の引用・転載可の写真)

イージス艦は全長161m、排水量7250トンの日本で言うところの護衛艦だが、旧日本海軍の軽巡洋艦と全長がほぼ同じで横幅はやや大きい。機関はガスタービン4基2軸、100000馬力で速度は30ktとなっているが、種々の配慮から発表値(とくに速度)が本当かどうかはわからない。

この写真から船の速度を割り出すことは不可能では無い。まずガスタービンにもかかわらず煤煙が写っていることから機関をかなりふかしていることが解る。そして艦首で立ち上がった波頭は艦の中央あたりでいったん低下して艦尾あたりで再度立ち上がり、そのピークは船のわずかに後ろにある。

船が発生する波頭の波長は船の種類に関係なく速度の自乗に比例し、30ktでは約150mになる。従って全長161mというデータと写真の波長(1.5波長弱)を見れば、26kt程度の速度であることが推定できる。このあたりが映画で使われる模型ではどうしても再現できないところだ。船の全長と、観測した船の長さのcos-1をとれば、相対的な進行方向が算出できる。

しかしWebmasterの興味をひいたのはその装備では無くて名前であった。現代の砲艦たるイージス艦の正式な名称は護衛艦「こんごう」型で、姉妹艦として「きりしま」、「みょうこう」、「ちょうかい」がある。いずれも旧日本海軍の戦艦と重巡洋艦の名前が使われていることに少し違和感がある。どうしてこれらの名前が選ばれたのだろうか。

まず「金剛」は大正2年竣工の巡洋戦艦で、マレー作戦、インド洋作戦、ミッドウェー作戦、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦と出撃して生き延びたが、昭和19年に台湾沖で米潜水艦「シーライオン」の雷撃で沈没している。この名前が復活した理由は定かではないが、おそらく近代的な戦艦として最初に建造され、数々の海戦を生き抜いた縁起の良さからだろうか。

問題は「霧島」である。これは金剛級巡洋戦艦の2番艦として大正3年竣工し、真珠湾攻撃、ラバウル攻略、インド洋作戦、ミッドウェー作戦に参加、第三次ソロモン海戦で米戦艦「サウスダコタ」との砲撃戦で沈没している。同じ金剛級「比叡」はやはり第三次ソロモン海戦で大破自沈、「榛名」は大破着底で終戦を迎えている。どちらかというと「はるな」の方が縁起の良いが、「はるな」は「ひえい」と共に別の護衛艦(DDH)に名前が使われているからだろう。

つぎに「妙高」は昭和4年竣工の妙高型重巡洋艦で、フィリピン攻略(被爆)、スラバヤ沖海戦では英国重巡洋艦「エクゼター」などを撃沈、珊瑚海海戦、ミッドウェー作戦、ブーゲンビル海戦(中破)、レイテ沖海戦(中破)、と殆どの重巡洋艦が沈没する中を生き延び、最後はシンガポールで敗戦を迎えている。被害を何度も受けながら戦績を挙げ生き残った縁起の良さが採用の理由だろうか。

最後の「鳥海」は昭和7年竣工の高雄型重巡洋艦で、マレー沖海戦、インド洋海戦、ミッドウェー作戦に参戦し、第一次ソロモン海戦で豪重巡洋艦「キャンベラ」撃沈、他の重巡洋艦と共に「ヴィンセンズ」「アストリア」、「クインシー」を沈没させた。レイテ沖海戦では同型の「愛宕」「摩耶」が出撃早々に米潜水艦の雷撃で沈没するなかを生き残ったが、サマール沖で大破し沈没処理された。終戦までは生き残れなかったが、トップクラスの戦績を挙げたことが理由だろうか。旗艦機能のため巨大化した艦橋のシルエットはどことなくイージス艦に似ている。

どうやらイージス艦の命名にはサバイバル性(縁起の良さ)と戦績が影響しているように思える。必ずしも戦艦に限らず重巡洋艦の名前も使われたのは、旗艦機能を必要条件としたものだろう。Webmasterは現代の砲艦であるDDGに対する「こんごう」という命名は、同じ山岳名でもDDH「はるな」の命名より何かしら重いものを感じるのである。

ところで戦艦でも旧国名のものは使われていない。理由としてクラスの問題だけでなく「扶桑」と「山城」は戦績の問題、「長門」は水爆実験、「陸奥」は爆沈のイメージ、「ヤマト」と「武蔵」はあまりにも重い国家的イメージがあり使われていないのだろう。とすると激戦を生き延びて大破着艇で終戦を迎えた航空戦艦「伊勢」、「日向」あたりには大型DDHもしくは大型LSTとしての出番があるかも知れない。

Webmasterはイージス艦の命名に若干の違和感を感じている。いずれにせよすべての船が平和に退役を迎えることを祈りたいものである。

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Dec 9
 ●伸びる飛行機DC-9のナゾ

ローカルな飛行機も時々利用するWebmasterだが、鉛筆のように細長いMD-90に乗り込む時にはさすがに違和感がある。狭い機体の中に1列5座席が延々と並んでいるからである。良くまあストレッチしたものだが、どうしてこんなに伸ばすことができるのだろうか。(Photo by boeing (c) allowed for personal use only)

1965年初飛行のDC-9-10は全長31.8mで座席数がエコノミーのモノクラスで90だった。それがMD-90では全長46.5mで座席数が172となっている。

長さが実に46%伸び、そして座席数は91%も増えている。元々低い全高も相まって、ダックスフントのように胴長な印象は否めない。

そこで翼長、全長、全高、推力、座席数の変遷を初期のDC-9-10を1として正規化したものが下図である。座席数(passenger)の倍近い伸びが印象的で、それはほぼ推力(thrust)の伸びと比例している。究極的には推力とお金を取れる部分(ペイロード)が比例することがわかる。

一方全長の伸びは予想した程ではない。これは操縦席やギャレー、尾翼部などに喰われるスペースがほぼ一定のため、全長が座席数ほど伸びる必要が無いからだ。そして全長の変化に比べると全高の変化は穏やかである。

MD-80とMD-90では翼長が伸びているが、よく見るとDC-9の外翼が延長された形状になっている。DC-9の翼形のテーパー比のまま先端を伸ばすと細くなって翼端失速を生じるので、先端近くを前後に膨らませるという苦しい設計になっている。

MD80での全高の伸びは水平尾翼のすぐ下が延長されたためで、前縁に延長した部分で段が付いている。MD-90ではMD-80の水平尾翼より上部にヒレが付加されていて、これまた苦しい設計だ。全長の伸びに比して垂直尾翼の拡大が小さいのは、全長のモーメントが効くためらしい。

DC-9とMD80シリーズのエンジンは多くの航空機に採用されたJT-8D系で、推力は進化の過程で50%も増えている。エンジンや補器の重さはほぼ一定なので、推力向上による胴体延長はペイロード増加に直結する。従ってストレッチモデルはエアラインにとってオトクなのである。エンジン外側にはボルテックスジェネレーターが生えていて、大迎え角時の水平尾翼付近の気流を整えている。

しかしストレッチモデルの限界は機首を起こした時の滑走路への尻もちである。このためソ連にはお尻にソリや補助輪が付いた機種すらある。あの墜落した747も尻もち事故の修理が原因だった。主翼より後ろを伸ばすと尻もちを付きやすくなるので、ストレッチは主翼より前方がやりやすい。

通常は前ばかりを伸ばすと重量バランスがとれなくなるが、DC-9族は幸いにもリアエンジンの重さが効いて釣り合うため、前ばかり長いヘンなプロポーションが成立するのである。もともと尻が重いDC-9族では水平尾翼に雪が溜まると重みで尻餅をつくクセがあるので、早々に除雪する必要があるという。

ところでMD-90は最大172座席と書いたが、JASの座席表によると166座席とあって仕様より少ない。その差はどこに行ったのだろうか。

Webmasterは米国で最大限に座席数を確保したDC-9族に乗った事がある。トイレは法規上の最小限のスペースだった。後部ギャレーが無いので客用のジュースのカートンと紙コップは客用のオーバーヘッドストレーッジに投げ込んであった。ジャンプシートはバスの補助席のように通路上に展開する折り畳み式で、離着陸時にアテンダントは通路上に座るのである。さらに後端のトイレに挟まれたドア兼与圧隔壁にも座席があった。アテンダントは後席付近の狭さを愛想の良さとジョークでごまかしていた。

後部ドア前のジャンプシートを外した分だけスペースが稼げる。そこで左右の座席を微妙に前後にずらしてピッチを確保しながら、めでたく仕様上最大の座席数を確保できることになる。さらに米国内仕様では洋上を飛ぶ時間が短いので、着水時はウレタン製の座面を救命胴衣の代わりに抱くことになっていた。さすが米国のエアラインは徹底していると感心したが、今後はエコノミーシート症候群のからみでこんなシートマップは不可能になるだろう

上位機種にDC-11系しか無いダグラス社に取っては、クラスの間を埋めるために苦しいストレッチの連続だった。ストレッチ策を乱発して機種が増えたためにコストがかさんで利益が上がらず、業績が傾いたダグラス社は結局ボーイング社に吸収されたのである。その意味では米国的というよりは旧日本軍的な設計であった。

さてグラフの右端に717-200という聞き慣れない機種があるが、これがDC-9系の末裔である。これはMD-80をシュリンクさせて、ベストセラーだったDC-9-30と同じ100席前後のキャパシティーを狙った機種である。面白いことに主翼はDC-9-30のものだが、垂直尾翼は延長されたままである。エンジンと構造の進歩により、遙かに静かで効率の良い機体に進化している。

ボーイングにはすぐ上のクラスの737があるので、ストレッチしたMD-80やMD-90シリーズは不要になった。もちろんMD-90でも737程度のキャパシティーを確保できるが、胴体が太く1列に6席確保できる737に比べて快適性が劣るため、居所が無くなったのである。

というわけで、最後に自分の住処を見いだした717-200はまだ幸せな方で、MD-80とMD-90は廃番になってしまった。DC-9族はその初飛行から36年もたった機体だが、当分は国内外でその末裔を見ることができるだろう。乱発されたストレッチ策によって経営が傾いたダグラス社の命運を知ると、涙無しには長い通路を辿れない機種である。

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Dec 2
 ●車ガラスのコランダム磨きのナゾ

最近は雨の夜など車を運転するのが億劫なWebmasterである。寄る年波には勝てないと諦めていたが、車のフロントガラスが痛んでいるせいではないかと思いついた。ハネ石による点状のキズはともかくワイパーの擦り傷も目立ってきた。そこでガラスを研磨してみようというのである。

車にはハネ石やワイパーの擦り傷だけでなく、焼き付いたシリコン皮膜や大気汚染によるウォータースポットも付着している。巷に売っているガラス磨きはかろうじてシリコン皮膜の一部を除去するだけで、ガラスを削る能力は無い。

ガラスはモース硬度にして6弱、ビッカース硬度にして600程度とかなり硬い材料である。これを磨くにはコランダム(サファイヤと同じ酸化アルミニウムでモース硬度9、ビッカース硬度1500)かダイヤモンド、あるいは硬度はガラスより低いが化学的に表面を溶かして研磨する酸化セリウムを使うのが定石である。外車などの特殊ガラスを磨く専門業者は酸化セリウムを使っているようだ。

と、ちょうど良いことにwebmasterの手元にはコランダム粉があった。これは超硬時計に使われるタングステンカーバイト(ビッカース硬度1500)やサファイヤ風防を磨くために使っていた研磨剤(AL6#6000、100g\1000)で、貴金属細工の店で入手できる。

手順だが、まず車を完璧に水洗いする。次にコランダム粉を水で歯磨き状に練り、塗装下地調節用の目の細かい粘土を使って気長く研磨する。いかに硬いコランダム粉といえどもガラスがサクサク削れるわけでは無い。疲れる作業が予想されるので運転席の前方視界の中心20センチ四方をメインに磨くことにした。

期待に反して磨き初めて最初の2分程は何の変化も無かった。主にシリコンを削っていたのだろう。

3分ほど磨くとくっきりと点状のキズとワイパー擦り傷が目立つようになった。磨いているのにどうしてキズが目立って来るのか不思議だったが、ガラスの凸の部分が研磨されて、凹に残ったシリコンが水をはじいてキズが目立つのである。

さらに10分ほど気長に磨くと、急に空が晴れたように室内がクリアに見えるようになった。隣に止めてある車と比べてみてもかなり透明度が高く、ちょっとした驚きである。写真でも様子がわかるだろうか。

もちろん点状のキズは残っているが、透明度は新車よりむしろ良い位である。昔はガラスは最終工程で研磨されていたが、今は溶けた金属の上を流すフロー製法のため、昔ほど丁寧に磨かれていないそうである。20センチ四方がキレイになったので、欲を出して右のワイパーの範囲を軽く磨いて作業を終了した。使用したコランダムは約10g(\100相当)と、思いの外少量だった。

さて強力な研磨材であるコランダムを使った作業が皆様に薦められるかどうかは疑問がある。Webmasterの場合は手元にコランダム粉があったので使用したが、貴金属細工の店で入手可能な酸化セリウム(#8000)のほうが無難かも知れない。

ただし酸化セリウムによる研磨はコランダムよりはるかに時間がかかる。最初の作業で電動工具でバフをかけるのは削りすぎや温度上昇の危険があるので、粘土による丁寧な手作業による水研ぎを薦めたい。先に書いたように凹んだ部分のシリコンが目立たなくなった時点が研磨の目安である。もちろん点状の深い傷は残るが、エッジが削れるのでかなり目立たなくなる。

研磨後の視界は素晴らしいものがある。最近目が弱ったとお思いの方々も多いと思うが、それは必ずしも老眼のせいとは限らない。シリコンと擦り傷のせいかも知れない。なおこれはWebmasterが独自に考えついた手法であり、作業がうまく行かなくてもWebmasterは一切責任を担保しないので、そのつもりで。

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