親愛なるドイツ国民諸君
クーノが首相に就任したとき、連合国との宥和が必要で首相府の変化が行われたと人々は噂した。そのクーノの宥和策とは一体何なのか?
ごく簡単な話だ。
ドイツが復興するためには、敵の要求に最大限応えるという事だ。敵の要求が法的に有効か否かは重要ではない。
ドイツはすでに他のどの国もできない位に要求に応えている。しかしドイツ国民は国富の全部を越えた賠償を支払う必要があるとされている。すなわちこの要求には明解な目的がある。それは経済を越えたものを要求するという事だ。
フランスは賠償を求めているのではない。フランスはドイツの完全な破壊を欲している。古くからある夢の実現だ。「フランスの支配するヨーロッパ」だ。
賠償とは合法の仮面のもとで、ドイツをひざまずかせる事に他ならない。国家を国家ならしめる脈絡を断ち切り、再度小邦のドイツに戻らせ互いに戦わせ消耗し尽くさせる事、それが目的だ。
だから政府がフランスを満足させる方法はただ一つ、ドイツ帝国を滅亡させ破滅に追い込むことだ。フランスを満足させるとは経済的なことでなく政治的なことだ。これが原因でウィルト首相府は崩壊したのだ。フランスを満足させるためにはドイツを滅亡させるしかない、そしてウィルトにはそれができなかった。
しかし我々のドイツの若者の胸には究極の勝利をもたらす炎がある。彼らこそがこの苦境を支えることができ、また新世界を創造できるのだ。新しい若い戦士がドイツに到着している。もちろん祖国のために既に血を流した若者もいて、現在ドイツを支配する者たちのおかげで流した血が無駄になったことも知っている。
議会によって国家の尊厳は保たれない。議会は自分たちを守るだけの議案を通すだけだ。ドイツは独裁者と行動を起こす意思のみによってのみ救済される。
人々は問うだろう。誰か我々のリーダーとしてふさわしい人はいないか、と。我々の任務はそのような人を探すことではない。神がつかわすか、現れないかだろう。我々の任務はその人が来たときに備えて剣を磨くことだ。我々の任務はその人に準備が整った国を用意することだ。同志であるドイツ国民諸君めざめよ。新しい日はそこまで来ている。
これは1923年5月4日、フランスのルール占領が最高潮となったときのものである。現在からみると、陳腐なデマゴーグにしか聞こえない。それでもフランスの賠償要求についてわかりやすく述べている点は理解しうる。ただ独裁者待望のくだりがなぜドイツ人にアピールしたのか現在の人間が理解するのは難しいかもしれない。わずか80年ほど前にすぎないが。
クーノ