昨週、議会で述べたとおり、我が国だけでなくヨーロッパ全体のため平和維持に全力を尽くしてきた。今日の動きは非常に急速で、技術的な正確さをもって表現することは至難である。はっきりしたことはヨーロッパの平和維持に失敗したことだ。ロシアとドイツが互いに宣戦を布告した。
政府の方針を述べる前に、前提となることをはっきりさせたいと思う。その後、今回の危機にたいしての政府のとるべき態度について議会に説明したい。まず政府がいかなる義務におかれているか、また議会が決断をくだす際いかなる選択がありうるかという点である。
第一にはっきりさせたいのは、我々は平和を維持する方向で全力を傾けたことである。議会はこの点では満足することと思う。この数年間政府はずっとそうして来たし、そのことを証明するのは簡単と思う。数次のバルカン危機においても平和のために努力した。ヨーロッパの強国はバルカン戦争のときも平和に向けて成功した。たしかに2つ以上の強国が見方を修正するのにやや困難だったのは事実だ。そして違いを調整するのに時間と労力がかかった。だが平和は維持された。そして平和自体が強国の目的だったし、違いを強調するより、時間と労力をかけて平和を確保した。
それではなぜ今回ヨーロッパの平和を維持するのに失敗したのか。それは時間が限られたことである。とにかく名指しはできないがある方面で問題を無理に急速に押し進めようとしたことである。その結果強国の関係する範囲においてだが、平和維持という政策が危険となってしまった。私はどの国が非難されるべきだとか、どの国が平和に熱心だとかまた戦争の危険をおかす構えをみせているとかは発言したくない。というのは今回の危機について議会にイギリスの国益、名誉、義務という観点からみて欲しいからで、それはどうして平和維持に失敗したのかを追及することとは無縁だからだ。
今回の危機の状態はモロッコのときとは違う。始め、オーストリアとセルビアで争いが起こった。どの国も政府もフランスとはともかくオーストリアと争って戦争に巻き込まれたいとは思わない。だが巻き込まれた。それは露仏同盟のためである。また議会に申し上げたいのは、我々にはこの同盟にあるような義務を課せられていないことである。我々は露仏同盟の当事者ではないし、また条文の内容も知らない。正直にまた正確に言うが我々は義務という観点で前提は何もない。
それでは我々のするべきことについて述べよう。長年にわたりフランスとは友好関係を築いてきた。前の政府がフランスとの合意に達したときの議会の反応を私はまだよく覚えている。過去において永遠とも思える違いを乗り越えた事実は暖かい、親密な感情を呼び起こした。私も親密な雰囲気を作り上げるのに親切な影響力が働いていると述べたことを覚えている。だが友情ということでどの程度義務を負うのだろうか。そしてこれは両国で批准された国家間の友情なのだ。
諸君自ら心情また感覚で、義務がどの程度伴うのか判断して欲しい。私自身もこの程度について考えてみた。しかし結論を諸君に押し付けようとは思わない。議会自身または諸君自身が判断すべきものだろう。私は個人的見解を喋るのみで、そしてその感情はこれまで議会に述べてきたつもりである。現在フランス艦隊は地中海にあり、フランスの大西洋岸は無防備の状態である。
フランス艦隊は地中海に集中しているのは昔とは違った状態である。両国に芽生えた友情はフランスをして、イギリスにたいして何も恐れることはないという安全保障の感覚を生じさせたのだろう。私個人の感覚としてはもしフランスが侵略者でもなくまた望んでもいない戦争で、敵が英国海峡を通過して海岸地帯を艦砲で射撃することがあれば、傍観しているわけには行かない。(喝采)そして我々の目の前でこれが起こり、武器をたたんで不愉快そうに何もしないというわけには行かない。私はこれがこの国の感覚と思う。もしこのようなことが実際に起きたとするなら、陸上にもはや抵抗しがたいような感覚が広がるのを待つだけだろう。
だが私は物事を感情ぬきで見たいと思う。そしてこれから議会で発言することの基礎をなすイギリスの国益から見てゆくとしよう。この瞬間何も言わないとするなら、フランスは地中海にある艦隊でどうするのか。もしフランスの艦隊が地中海にあり、我々から何も言質が得られないとするなら、北部と西部の海岸地帯は無防備で放置され、ドイツ艦隊は好きなように海峡を通過して、生死のかかる戦争でドイツが一方的に喜ぶことになる。
我々は今ヨーロッパの大火災の目前にある。もしフランスが地中海から艦隊を引き上げたらどうなるのか。それから起こる結果について何か制約すべきだろうか。「我々は関係したくないしどちらにも組しない。」と言って、中立を保つことを仮定してみよう。そしてフランスが地中海から艦隊を移動させたとする。この結果は中立国にも参戦国にも重大である。もちろん結果はわからないが、突然あとになってイギリスが参戦したとしよう、すると現在は中立だがイタリーの後背はどうなるのだろうか。
イタリーは現在のところこの戦争が侵略的戦争で、三国同盟の防衛的性格から参戦義務には当たらないと考えている。だがもし我々が重大な国益のため参戦したなら、イタリーに参戦義務が生じてしまうのだろうか。すると地中海の動向は。地中海の通商ルートはイギリスにとり死活問題だがこれらの結末は参戦した重大な瞬間に我々に襲いかかってくる。
数週間あとイギリスにとり現在重要でもない通商ルートが開放されているか否かは誰にもわからない。すると地中海はどうなるのか。我々は他の艦隊が束になったとき対抗できるほどの艦隊を地中海に置けていない。だが現在は地中海に艦船を派遣しうる余地はない。否定的な態度をとることによって、最も恐ろしい危険をとってしまうこともあり得るのだ。私はまさにイギリスの国益からそれを言うのだ。フランスの北部と西部の海岸地帯について攻撃を受けた際、またたとえ受けなかったとしてもフランスにはイギリスの支援に頼ってよいのかどうか、知る権利があると私は信じる。この危急の状態に際して、昨晩フランス大使に次ぎのステートメントを与えた。
ドイツ艦隊が海峡または北海を通過し、フランスの海岸もしくは商船にたいし敵対行為を行うなら、イギリス艦隊はその防衛のため出動する、という保障を与える権限を私は付与された。この保障は議会の承認を受け、政府の政策に従うものとする。そしてドイツ艦隊が上記のような行動にでるまで、イギリス政府が拘束されることはない。
これは宣戦布告でもなくすぐさま交戦行動を惹起するものでもない。しかし仮説の行動があれば、我々を拘束するものである。物事が時間単位で急速に動いている。フランスからニュースが入ってきている。しかしまだ公式に申し上げられる段階にない。もし我々が中立を保つならドイツ政府はフランスの北部海岸を攻撃しない用意はできているようだ。それは議会に到着する寸前に聞いたものだ。だが我々の関与を決定するには狭すぎるようだ。そこでだが、もっと重大な考慮を必要とする件がある。そして刻一刻深刻になっている。ベルギーの中立問題である。
昨週この件で起きたことを報告する。動員が始まって以来この件が政策を決定するうえで最も重大だと承知していた。もちろん議会にとってもだ。私は同時に同内容でパリとベルリンにベルギーの中立を尊重するか否か電報をおくった。フランス政府からの回答は次のようなものだった。
フランス政府はベルギーの中立を尊重することを決意した。他国がベルギーの中立を侵犯し、ベルギーの安全保障のため必要と認められたときを除いてそれ以外の行動をとることはない。この保証はすでに数回与えられている。共和国大統領はベルギー国王とそれについて話したし、ブラッセルのフランス大使は本日、ベルギーの外務大臣にこの保証を再度表明した。
ドイツ政府からは
外務大臣は皇帝と帝国宰相との相談以前には回答することができない。
エドワード・ゴッシェン(イギリス駐ベルリン大使)に回答を素早く得ることは極めて重要だと言った。ドイツの外務大臣はエドワード・ゴッシェンに回答できるかどうか疑問だという印象を与えたようだ。回答すると戦争開始後作戦計画に好ましくない影響を与えるからだ、ということらしい。私は同時にブラッセルに電報を打った。フランシス・ビレール(イギリス駐ブラッセル大使)から次の回答を受け取った。
ベルギーは他の諸国が中立を尊重し支持するものと期待しまた希望しています。ベルギーも中立をできる限り維持しようとしています。外務大臣は中立侵犯の際は侵略にたいしては抗戦できる地位にあると語っています。ベルギーとその隣国との関係は良好です。隣国の意思を疑うに足る理由はありません。しかしにも拘わらず危急の際に備えたいと思います。
本日またニュースを受け取った。たった今来たものだから、どの程度正確かはわからない。最後通牒がドイツからベルギーに発せられた。最後通牒の目的は、ドイツ軍の自由通行を条件にベルギーとの友好関係を維持するとういうものだ。(皮肉な笑い)
これらの点がすべて明確になり、また議会の諸君が全て十分で完全で絶対的な情報が得られるまで一切喋ってはいけないといことでもないだろう。先週、戦争が終了してベルギーの独立が回復されれば我々は満足するのか否か打診を受けた。我々はベルギーの中立に関していかなる形でも交渉材料とすることはないと答えた。(喝采)
議会に到着する寸前に次ぎのような電報がベルギー国王からわがジョージ国王に送られたとの知らせを受け取った。
陛下の友情の数多くの証明と重代の国王の友情と1870年のイギリスの友好的態度、そして今再びおくられた証明を想起し、私はベルギーの存立を保障するために陛下の政府に外交的干渉を至高のものとして訴える次第です。
外交的干渉は我々に対して先週あった。今我々はどのような外交的干渉をなすべきだろうか。我々はベルギーの中立に死活的重大な関心を有している。存立はその最低の部分だ。(大きな喝采)もしベルギーが力で中立侵犯に屈するようなことがあれば事情は明らかだ。また仮に合意で中立侵犯に屈することがあっても、強迫されたものであることは明らかだ。ヨーロッパの当該地域における小国の願いは放っておいてくれということと、独立でしかない。彼らが恐れることは、存立よりも独立に干渉されることだ。ヨーロッパの眼前にあるこの戦争で一方の国の軍隊により中立が侵犯され、また他国から何の行動も起こされないとするならば存立はどうあれ独立などなくなってしまう。(喝采)
いや諸君、ベルギーへの最後通牒が事実としてまた中立について侵犯または譲歩をもとめられているとするならば、見返りに何が提供されようともそれが続く限り、独立が損なわれていると言わざるを得ない。ベルギーの独立喪失のあとオランダが続くことになろう。私は議会に国益の観点から何がかかっているのか、考えて欲しいのだ。フランスがこの生死をかけた闘争に敗れれば、大国としての地位を失い別の更なる大国に従属することになろう。もちろん私はこんな結末を心配していない。フランスはいままで何度もみせたようにその全ての力と情熱と能力で自身を防衛することができる、と確信している。(大きな喝采)
それでももしそれが起きれば、ベルギーは同じ勢力のもとに置かれ、オランダ、デンマークも同じ運命をたどるだろう。するとグラッドストーンの言葉、「我々に向かい強国の拡大に反対する共通の利益が存在する」が真実とはならないか。(大きな喝采)
一方で、我々は関与せず、力を蓄え、戦争の過程では何が起きようとも最後に自らの観点で全てを正しくするために介入すればよい、とも言われている。だが今回のような危機で、ベルギーの中立遵守義務から逃走(大きな喝采)してたとえ最後に物質的に有利な立場に立とうとも、失うことになる尊敬を前にして何の価値があろうか。そしてある強国がこの戦争に関与しないで最後になって優越した力を行使できるとは、私には思えない。
我々は卓越した海軍をもち通商を擁護すること、海岸線を防衛すること、死活的利益は守護することは可能であると思う。参戦しても困難に陥ることはあっても、関与しないより困ることはないだろう。
一方我々は戦争に参戦してもしなくても困難には陥る。外国貿易は停止することになろう。通商ルートが阻害されることによってではない。相手側の通商が消滅するからだ。大陸諸国は全人口、全エネルギー、全資力をあげて戦争に突入し、平和時における通商を営むことはできないだろう。我々が参戦してもしなくても同じことだと思う。我々が最後まで参戦することなく蓄えた物質的力で、終戦時戦争の結果について覆すことができるかどうか、疑問に思う。
戦争の結果として西ヨーロッパが単一の強国の支配下に置かれた場合我々の道徳的立場は(このあと尊敬を失ったも同然、というセンテンスで大きな喝采があり最後まで聞き取ることができなかった。) 私は今のところ、ベルギー問題を仮説のものとしてしか提起できない。全ての事実に自信がないからだ。だが現在までに届いている情報が真実であるならば、結果として起きうる事態を防止するために全力を尽くすのがこの国に課せられた義務であることは論をまたない。
それでは議会に提出できる別の政策があるだろうか。現在の瞬間でこの戦争に関与しない唯一の方法は無条件の局外中立を宣言することである。我々にとりそれは出来ない。(喝采)すでに今日読み上げた通りフランスにすでに約束している。そして局外中立とするにはベルギーの中立問題を抱えている。これらの問題が解決されない限り、我々が全力をあげての武力行使の可能性から逃れてはいけない。
もし局外中立の線を追求するとしてこう言ったらどうか、「どんなことがあってもたとえベルギーの中立が損なわれても、地中海の状況がどうあっても、イギリスの権益がどうなろうとも、フランス支援の失敗でフランスに何が起きようとも、我々には関係がない。」そして、非関与を主張するなら、我々は全世界の前で、尊敬と名誉と名声を犠牲にすることになろう。そして厳しい経済的結末からも逃れることができないだろう。(喝采とNOという声)
もう一つ言うと、このひどい状況のなかで明るい場所はアイルランドである。(長い喝采)アイルランドを通しての一般的感覚は、考慮に入れる段階になくこのことを外国にも理解して欲しいと思う。(喝采)
私は政府がどのような義務を生じる約束をしたか、またその前提について話してきた。そしてベルギーの中立という前提がいかに重大かを最大限説明した。
私の目的は政府の見解を説明することである。そして議会に問題点と選択肢を提議することだ。すでに話してしまったあとでありまた不完全な情報とはいえ、私が述べた点で隠し事はなにもない。そしてベルギーに関連して、我々は全力を尽くさねばならないこと、またその結果について覚悟しなければならないことを提議した。どのくらい早くかはわからないが、自身を防衛せねばならないし、また責任も引受けなければならないだろう。
これまで述べてきたことが事実だとしてまた我々側では攻撃的行動をとる意図はないにしても、これで武力行使に踏み切る決断をしたということではない。だが全貌が知れるにつれ武力行使が強いられることはあるだろう。我々の軍に関する限り準備はできている。首相(このとき陸相を兼務していた)と海相は今ほど軍の効率性と準備が高まったときはないと思っている。そして我々の海岸と通商を保護するときが最も海軍の力が発揮される場面である。どのヨーロッパ諸国も中立や回避では逃げられない困難と貧窮は常に脳裏にある。大陸諸国がこうむる経済的条件悪化による困難の量と、敵艦による我々の通商の損害は途方もないものになるだろう。
一番の責任は議会に何をなすべきか助言する政府にある。我々は現在の心境を議会に述べ得た情報と問題点を開示した。我々は状況に直面することができると信じる。そして事態は進展するにしてもそれに直面しうると信じる。我々は最後の瞬間まで平和のために努力した。最後の瞬間を越えてもだ。先週どのくらい熱心に一生懸命平和のために努力したか議会はすぐ文書で知ることになろう。
だがヨーロッパの平和に関しては全てが終わった。我々はまだ姿をみせていないすべての結末と事態に直面しなければならない。我々は結末がどうあれ事実の進展と他国の行動によりとらねばならない手段がどうあれ議会から先行してだいたいの支持は得られたと理解している。事態があまりに早く進展したため、まだイギリスは完全に状況を把握していないと信じる。たぶんオーストリアとセルビアの争いと思っているのかもしれない。両国の争いが大きくなっていった複雑な過程は理解しかねるだろう。ロシアとドイツは交戦状態にある。まだドイツの同盟国のオーストリアがロシアと交戦状態となったかは分からない。
フランスの国境地帯ではかなりのことが起きているだろう。ドイツ大使がパリを出たかも分からない。
事態がこう急速に進展したため戦争の状況について技術的にも何が正確に起きているかを描写することは困難である。私は我々の行動と政策に影響する基礎的な問題を提議した。そしてそれを明確化した。私は議会に非常に重要な事実を提起し、そしてあり得ないことでないと思うが、我々がこれらの問題点に断然直面せざるを得ないとし、何が問題で、何が犠牲となり、西ヨーロッパの切迫した危機の程度を理解したとき我々は議会だけでなく国全体の決断・決意・勇気・忍耐に支えられることになろう。