チンメルマンノートの解読


チンメルマンノートが解読されたのは疑いない。このノートの公表がアメリカ参戦に決定的な役割を果たしたこともまた疑いない。ところが実際どのように解読したかイギリス政府は依然公表していない。

これと同じように歴史的の決定的な役割を果たしたのは、日本海軍の暗号パープルの解読だった。兵力で劣勢だったアメリカ軍がミドウェーで勝利できたのは、この解読の結果だった。第1次大戦では、ドイツ海軍の暗号も解読されていたようで、シュペー艦隊の待ち伏せによる全滅もこの結果だった。ただしこの事実をイギリス政府は肯定も否定もしていない。

ただ第2次大戦でドイツの暗号エニグマが解読されたか否かは未だに疑問とされる。大戦末期のドイツのルントシュタット攻勢(バルジ作戦)をみると解読に失敗したとも思える。

チンメルマンノートは度数秘匿方式を採用した暗号集(nomenclator)と呼ばれる方法によったとされる。この方式はアルファベットの頻度を計測し、暗語(実際に送信する数字・文字)を見破られるのを防ぐためのものだった。すなわち、チンメルマンノートの場合、暗語と原語(本当の単語)両方を含むコードブックをドイツ外務省とワシントンにあるドイツ大使館に2冊備え解読していたものである。実際には収容原語は数千に及んだという。

実際のチンメルマンノートの暗語とされるもの。
ただレターヘッドはアメリカの電報会社のもので、メキシコシティーのドイツ代表団に送られた形をとっている。

この数字の羅列のうち2段目の左から2字までは発信者などの通牒名で、本文は3字目21560から始まる。すなわち

ドイツ語 英語(訳)
21560 Wir We
10247 beabsichtigen intend
11518 am from the
23677 ersten first
13605 Februar February
3494 un- un-
14963 eingeschraenkt restricted
98092 U-boat U-boat
5905 Krieg war
11311 zu to
10392 beginnen begin
10371 stop(.) stop(.)
0302 Es wird It will
21290 versucht attempted
5161 werden be
39695 Vereinigten Staaten United States
23571 trotzdem nevertheless
17504 neutral neutral
11269 zu to

以下続くが、想像するより複雑なことに驚かれたかたも多いと思う。この解読でイギリス情報部は、暗号ブックを盗むなどの暴力的なことはせず、紙と鉛筆で解読に成功したと言う。1896年フランスの数学者バンリオは「暗号とその解読法」のなかで一定量の暗語が入手できれば解読可能であることを説明している。

方法は暗語の重複を利用するもので、上の数字だけではやはり無理で以前からイギリス情報部はドイツの暗語を集積を図っていたのだろう。

また日本海軍の暗号パープルは機械による乱数を使用していた。ただこれはビジュネル多表方式と呼ばれるもので、機械で乱数を作るものだが1920年アメリカのフリードマン(Friedman, W.)によって解読の方法が既に考案されていたと言う。ただ方法は複雑である。



長田順行 暗号 ダイヤモンド社 1971

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