ロシア軍の陣中要務令

  1. 身命をなげうって戦友を救助せよ
  2. たとへ君の目前に死屍が横たわっていてもこれに顧慮することなく敵にたいし前進せよ
  3. いかなる困難にあっても自軍の被害を怖れてはならない。さもなくば勝利することができない
  4. 君が困難と感じるときは敵もまた困難と感じている。そして一層困難と感じているかもしれない。なぜならば君は自分の困難を感じることができるが敵の困難は感じることはできないからだ。そして敵の困難は必ず存在する。困難に直面しても決して逡巡することなく、常に大胆にそして不動であれ
  5. 防御にあっても単に防御していてはならず攻撃することが必要である。最良の防御法は攻撃することにある
  6. 戦闘に勝利する者は頑強であり大胆な者である。優勢を占め熟練している者ではない。勝利は1回の戦闘で得られるものではない。敵もまた頑強であり2回3回でもまだ決着をみないことがある。その場合は4回以上にも亘って勝利するまで戦い続けねばならない
  7. 戦闘に関する原則は僅少の損害で目標を達成することである。しかしこれは容易ではない。目的はしばしば全滅を賭して決行することにより達成される
  8. 目的の中途に横たわる障害はその如何を問わずただ如何にして征服するかを考えるべきであって、事象の困難なことのみを考えてはならない
  9. 秩序整然とした方陣は敵がどの方向から来ても背面や側面なるものを有しない。ただ唯一正面があるだけである
  10. 敵が不意に現れても銃剣または射撃によりこれを撃破することができる。両者の選択に困難はない。隊形は関係がない。敵が近ければ銃剣を用い、遠ければまず射撃を行い、次に銃剣を用いればよい
  11. 逃亡に成功したからといって栄誉は得られない
  12. 戦闘において交代はない。君が一度戦闘に入れば君は終了するまでそこから逃げることはできない。救援を得ることはできるかもしれない。しかし脱出はできないのだ
  13. 戦闘期間中は健康者のみを救援せよ。敵を撃破したのちに傷者を顧みるべきだ。戦闘中にこれを救援しその位置を去る者は怯者であり、仁者ではない。傷者の救援には特殊分遣隊が用意されている
  14. 君が指揮官ならばもし適切に処理されていることを知る限りにおいて部下の事務に干渉してはならない。他人がなすべき事を慮る者は、自分の事務に怠っている者である。各上官と部下はその範囲内において独立した責任を有している。独立がなければ責任もない。しかしながら上官は各人の勤怠を監視する必要がある。この限りで遠慮することはない

1912年4月参謀総長ジリンスキー名で公布されたものである。多分に当時のフランス軍の歩兵操典に影響されている。恐ろしいばかりの攻撃一辺倒であるがこれはロシア軍に限らず、第一次大戦に参戦した各国軍にあてはまる。

あるドイツ軍将校はこれをみて書いてあることはよいがロシア人は何一つとして実行できないと揶揄した。ドイツ人らしい自らのみ武勇に優れるといった狷介な発言である。しかし第二次大戦で痛打を浴びることになる。

ちなみに帝国陸軍1909年制定の歩兵操典に「歩兵戦闘の主眼は射撃をもって制圧し、突撃をもって之を破摧(はさい)するに在り。射撃は戦闘の経過の大部分を占めるものにして歩兵の為緊要なる戦闘手段なり。しかして戦闘の最終の決を与うるものは銃剣突撃とす」とある。

これを根拠に帝国陸軍は白兵戦戦術に力点を置いたと主張するむきが現在の史家でも主流である。しかしロシアに限らずどこの国の軍隊でも当時はそのような思想であり、これはその後も改められていない。白兵戦主義に対置されるのは火力優先主義だが両者は互いに矛盾しないことに注意すべきだろう。火力優先主義だけなど、あらゆる陸軍に存在しない。陸戦の目的はライフルを持った歩兵がある地点に軍旗をたてることにある。それは20世紀を通じて変わることがなかった。ライフルも火力であるに違いない。

銃剣


ロシア陸軍に戻る