1911年8月23日、第114回CIDが開催された。これはその議事録である。
出席者
アスキス首相
ロイド=ジョージ蔵相
グレイ外相
チャーチル内相
マッケナMcKenna海相
アーサー・ウィルソンAdmiral Sir Arthur Wilson海軍軍令部長
ベセルBethell海軍情報部長
ホールデンHaldane陸相
ウィリアム・ニコルソンField-Marshal Sir William Nicholson帝国参謀総長
ヘンリー・ウィルソン陸軍作戦部長
フレンチ陸軍閲兵長官
マレーMajor-General Sir A. J. Murray陸軍教育総監
オトレーRear-Admiral Ottley 海軍省次官
アスキス
ヨーロッパ情勢は不透明感を増している。それゆえフランスに対する軍事的支援が考慮されねばならない。そして1908年に起草された「帝国の軍事的措置」の結論を想起して欲しい。そこでは、政府が決定せねばならないことは、海外派兵また海軍のとるべき手段に関連するとしている。参謀本部はすでに、新規のメモを作成しているが、戦争の勃発とともにすぐさま歩兵6個師団と1個騎兵師団を、ドイツとフランスの動員初日に、我々も動員し、派遣する必要があるという内容だ。それゆえ、参謀本部は海軍から遠征軍が海峡を通行する保証が必要であり、同時に海軍は海からの敵の侵攻に備えねばならない。
アーサー・ウィルソン
アーサー・ウィルソン
海軍は陸軍を支援するために、一人の兵士も将校も、またいかなる艦船もさくことはできない。なぜならば、海軍の全兵力は北海にいる敵を封鎖する必要があるからだ。だが、フランスが自分の港湾の周辺を防衛できるというならば、海峡渡航に関してだけ、限定的な保証を与えることができる。
ニコルソン
それが、全部ということか?
マッケナ
海軍が出師準備発動をしている1週間、海軍は支援できないということだ。それに陸軍が独仏と同時に動員するといういことは初めて聞いた。
アーサー・ウィルソン
このやり方は、まだ大臣には知らせていませんでした。ただ、討議されても、その後、放棄されるとみなしました。
アスキス
陸軍参謀本部の案では1908年以来常に、開戦があったと同時に動員も実施されることになっていた。それしか、陸軍が大陸に介入するのに効果的な方法はない。それと、海軍がなぜ同時に出師準備発動してはならないのかが理解できない。
マッケナ
それは本質的な問題ではない。海戦が始まる初期段階の軍隊の海上輸送は重大な危険性があるということだ。それゆえ海軍は陸軍の輸送を保証できないというのだ。
アスキス
だが、今度の場合は短い海峡を渡り、友好国に行こうとしている。
ロイド=ジョージ
フランス艦隊の協力は期待できないのか?
マッケナ
フランス艦隊は全部地中海に集中する予定だ。
ホールデン
海軍は派兵が決定しても、協力できないということか?イエスかノーで応えて欲しい。
マッケナ
この問題は再検討させて欲しい。数ヶ月はどうしてもかかる。
アスキス
だが、フランス軍と同時動員の問題は重大なことであって、わが陸軍が戦場にいるかいないかの問題だ。
(ここでヘンリー・ウィルソンが立ち上がり大きなフランス地図を広げた)
ヘンリー・ウィルソン
ルクセンブルグはドイツの一部にすぎないから、ドイツ軍は南部ベルギーを通り、フランスに侵攻する。ドイツ軍はフランス戦線に84個師団を集中できる。一方、ロシア戦線には27個師団だろう。
これに対し、フランス軍は66個師団しか動員できない。それとは別に要塞兵が20万人ほどいる。BEFは6個師団ほど、16万人で大陸における巨人の対決のなかで大きな位置を占めることはできない。
だが、注意すべきなのはドイツ軍はベルダンとモーブージュの90マイルほどの間隙をぬって攻撃するとみられることだ。この間隙に道は13本しかない。おのおの3個師団は通過できるが、それ以上は不可能だ。するとドイツ軍はこの方面に約40個師団しか集中できない。
そして逆の観点からすると、1個師団は2マイルから2・5マイルほどにしか展開できない。この大軍にたいしフランス軍は37から39個師団を配置するだろう。するとわが6個師団が決定的な要因となることはありうる。
全部の戦線を見回しても、独84個師団、仏66個として、いかなる地点でもドイツは攻勢に出たとするならば優位にたつことはできない。それゆえ、わが6個師団というのは数字としても極めて重要である。さらに、イギリス軍を味方につけることによる、フランス軍の士気向上も見逃せない。以上の観点はフランス参謀本部によっても支持されている。
それとベルギー軍だが、その質については留保せざるを得ないが、ドイツ軍右翼にいるという戦略的位置の重要性は無視できない。
グレイ
ベルギー軍は戦局の大勢が固まり、勝敗が見えなければ、どちらにもつことうとしないのではないか?
ロイド=ジョージ
それはどうかな?たとえドイツ軍が前進し、ベルギー軍が攻撃しなくとも、ドイツ軍はこれに手当てをしなければならないだろう。
(満座はヘンリー・ウィルソンの流暢な説明に圧倒された。そして、ドイツ軍が緒戦で勝利し、フランス軍が退却を余儀なくされた場合に進んだ)
ヘンリー・ウィルソン
敗北したならばフランス軍はパリ後方に撤退するだろう。パリには25万人ほどの守備兵を残すことになる。ただ、ドイツ軍はフランス野戦軍を殲滅するまで、包囲に止めると思う。もちろん、野戦軍が殲滅されたときとは、フランスが占領されたということだ。
(だが、アーサー・ウィルソンはあくまで、海軍の立場を維持しようとした)
アーサー・ウィルソン
BEFは、規模が小さいことは別にして言語の違い、訓練方法の違い、装備・武器・弾薬の規格相違のため重大な不利に陥るのではないか。そのうえ、フランス鉄道に輸送を依存しなければならないというハンディキャップもある。戦争の初期にわが軍を派遣できたとしても、その時はフランス軍も動員中のはずだ。鉄道が渋滞することになるのではないか。
ニコルソン
そんなことは考究済みだ。今のところ致命的な問題は出ていない。
マッケナ
それでは、BEFをフランス軍の指揮下におけばいいではないか。
ヘンリー・ウィルソン
参謀本部はそのような見解はとっていません。
マッケナ
フランス軍が国境に配置する66個師団では、なぜ十分ではないのか?6個師団の増強がどうして効果的なのか?それなくしては、フランス軍は敗北する、それがあれば、勝利するというのか。
グレイ
フランスが侵略にたいし徹底抗戦することは前提にしてよいと思う。問題は我々の介入により勝敗が左右されるかだ。
マッケナ
もし今、我々がフランスに支援を約束すれば、今回の危機にさいし、フランス人はドイツの条件を受入れるのに消極的になるとでもいうのか。
アスキス
今討論することは、もしフランスが攻撃されたとして、我々は何ができるかという点だ。
ホールデン
この会議ですでに、介入はある程度効果があることは了解されたのではないかと思う。
(ここで小休止が入った。結論はフランスの戦争計画プラン17を受入れることに他ならない。そしてフランス軍左翼につくということは、シュリーフェンプランに従えば、最も強力なドイツ第1軍(クルック)の進路に立ちはだかることだとは気づかれていない。ただ、第一次大戦のマルヌ会戦までの状態を的確に予想していることに驚くべきだろう)
ロイド=ジョージ
海軍が輸送するとして、ロシア軍をフランスに運ぶのはどうか?
アーサー・ウィルソン
バルト海の通行は不可能だ。
チャーチル
トルコと了解が可能だとしてダーダネルス経由はどうか?
アスキス
それはちょっと難しいのでは?
グレイ
トルコ人はドイツ人と親しくなっている。この状態ではダーダネルス突破は困難だろう。
(午後2時に一旦散会されたが、チャーチルによれば陸軍作戦部長ヘンリー・ウィルソンは人々のある種の「幻想」を打ち砕いた。この後は陸軍に代わり海軍が説明する番である)
アーサー・ウィルソン
参謀本部から示された作戦の検証において次の各点が重要である。
- 常備軍全部が大陸に派遣されたとして、わが国の大衆心理に与える影響。パニックに陥る重大な可能性がある。これは海軍の作戦行動にも影を落す。
- 防衛上海軍を補佐すべき常備陸軍がゼロだとして、その結末。7万人以上による敵の侵攻はありえない。そのような数であれば海軍による掩護が必要だ。だがより少数による襲撃は、即応体制がなければ重大な結果を招く。戦時において北海沿岸には多くの守備すべき地点がある。
- 海軍作戦において直接協力できる常備陸軍部隊がゼロであることの海軍への影響。
開戦時における海軍の方針はドイツ北海沿岸の完全封鎖にある。我々はドイツ艦隊がどこにあるかを予想することはできない。一般的に第1艦隊はウィルヘルムスハーフェンに残りはキールだろう。現在のところドイツのドレッドノートはキール運河を通過できない。しかし、それ以外は通行できる。そして1915年には拡幅工事が完成する。
キール運河のためバルト海出口も警戒せねばならない。我々はドイツ艦隊が出撃することを望んでいる。しかし不幸なことに、もし自由に出入りさせると、駆逐艦や水雷艇の出入りも自由となり、それは防がねばならない。
可能であればドイツ沿岸への哨戒は駆逐艦が当ることになるだろう。しかしながら、わが基地からは300マイル以上離れており、哨戒地点に長く留まることはできない。結果として地点を減少させねばならないだろう。夜は少なく、日中は増やすことになる。駆逐艦の外側に、砲艦と巡洋艦を配置する。敵の主力艦が現れれば、引き、そして迎撃することになる。合戦は随時発生することになり、消耗戦の様相を呈するだろう。
敵少数による上陸は、戦略的重要地点、ワンガルーンやシリングホーンが考えられるが、我々もキール運河に脅威を与える地点への上陸を考えねばならない。
もし1個師団あれば、敵10個師団を拘束することができるだろう。であるがゆえに、1個師団すら、期待できないとすれば大変に残念なことだ。もし必要であれば、海兵隊だけでヘリゴランド島を占領できる。
そして、我々の上陸部隊はもし優勢な敵の勢力が鉄道を利用した内戦作戦で攻撃すると察知すれば、直ちに撤収すればよい。
ニコルソン
海軍はドイツの鉄道地図をもっているのか?
アーサー・ウィルソン
そんな地図をもつのは海軍の仕事ではない。
ニコルソン
何、もう一度言ってみろ!あんた、もし陸軍の問題に首をつっこむ気があるのなら、もつだけじゃなく、研究しなきゃダメだよ。
海軍のいう作戦は一世紀前であれば、確かに有効だった。なぜならば陸上交通が未発達だったからだ。今は違う。陸上交通が発達すると、それは必敗だ。我々が上陸したとしてもドイツ軍はすぐさま優勢な兵力を集中できる。
(ニコルソンの説明は鉄道の発達に伴う陸戦の変化について実に的確である。この鉄道網の整備という事態が、イギリスを陸軍という点で二流国に押し下げてしまったわけである。それにつけてもイギリス海軍の鈍感振りは尋常ではない。ただ、海軍将校というのは戦略はカラキシダメであって、日本でも1941年12月、帝国海軍は戦術において超一流、戦略において下策な作戦を発動した。アーサー・ウィルソンはここまでで完全に論破されたが、それにもめげず、与えられた時間で海軍の計画を更に説明した)
アーサー・ウィルソン
バルト海作戦にうつることにする。もし北海作戦がうまく行けば、次にバルト海に進み、プロイセン沿岸を封鎖することになる。
チャーチル
これ、ちょっと危ないんじゃない。
アーサー・ウィルソン
そんなことはない。デンマーク人は中立を守るだろうし、ドイツが機雷敷設などでデンマーク人を怒らせないだろう。
この作戦に必要なのは陸軍1個師団にすぎない。
ニコルソン
参謀本部がその1個師団を用いる作戦が狂気の沙汰だとみなしても、海軍はやるつもりかね。
アーサー・ウィルソン
(弱弱しい声で)陸軍の直接の支援はいかなる形であっても重要と考えている。
グレイ
現在解決すべき問題はいかなる手段でドイツ人に最大の被害を与えることができるかだ。私の判断では、敵前上陸作戦はなんら海上の勝利に貢献しない。そして、海上の勝利がドイツ人に最大の被害を与えることにならず、陸上での戦いが決戦となるだろう。
(この後、ニコルソンは完全に切れた。"He lost
his temper"更にホールデンとマッケナは怒鳴りあいを始めた)
チャーチル
陸地に近接しての封鎖は危険ということはないか?
アーサー・ウィルソン
最近の演習の結果では、成功したばかりでなく、展開する駆逐艦の数を減らすことになる。
この近接封鎖を命令する目的は秘密を守るために必要だからだ。艦隊にすら知らせてはならない。
アスキス
なぜ、海軍は参謀本部の提案に批判的なのか?
アーサー・ウィルソン
海軍は海軍の努力を支えるために地上部隊が必要だと考えている。6個師団が大陸に出動したあと、敵襲に耐えるだけの地上部隊は必要だ。もちろん数はわからない。東海岸に加えて、グレートヤーマス・ブライス・グリンビーにも防御部隊は必要だ。
(このあと、アーサー・ウィルソンは反論にさらされ、敵侵攻案なるものはボロボロになった。それは封鎖作戦自体に疑問を抱かせた)
マッケナ
本当は敵侵攻の懸念はないかもしれない。だが、しかし開戦となり本土に守備隊がいないでは、住民はパニックに陥りかねない。そして、政府には艦隊が直接、沿岸警備をしろという要求が来るだろう。
イギリス国民の士気も考慮に入れるべきだ。その上、当初海峡の警備をせねばならないとすると、海軍の負担は更に増大する。
(マッケナはあくまでアーサー・ウィルソンを弁護しようとした。それはあたかも沈み行く船にいる軍令部長と同時に溺れるかのようだった)
アスキス
(そろそろ論点を整理しようと思ったのか)1908年サブ委員会の結論では、テリトリアル部隊が展開を完了するまで、2個師団は残置する計画となっているが・・・。
ホールデン
6個師団を派遣したとしても、まだ42万人のテリトリアル部隊は残っている。そのうち4万人は現役兵だ。
アスキス
すると陸軍は1908年の結論を変更しようとしているのか?
ロイド=ジョージ
やはり、2個師団を留めるのは必要ではないのか。
チャーチル
海軍は封鎖作戦を実行しながら、なぜ敵襲を恐れるのか?
アーサー=ウィルソン
封鎖に失敗し、ドイツ艦隊が出てくるかもしれないからだ。
チャーチル
でも、出てくるのが海軍の希望ではないのか?
マレー
教育訓練の観点からは2個師団を残した方が望ましい。また馬を徴発するのに時間がかかるうえ、自転車部隊が即、海岸線に配置されねばならいので、通信の遅れを考慮せねばならない。
そのようなことで、大陸に派兵する一方、国内での次のステップも考える必要がある。
アスキス
ともかく、わが軍の存在を示さねばならない。
ヘンリー・ウイルソン
それには決戦方面にもてる力を全部投入することで、決戦方面はフランスに外ならない。それでも5個師団であれば、6個師団とそれほど差があるわけではない。
ニコルソン
ないよりは4個師団でも派遣した方が得策だ。
マッケナ
早い段階で、本土に常備陸軍がゼロとなることにはあくまで反対だ。
アスキス
英印軍を本土に持ってくるのはどうか?
アーサー・ウィルソン
スエズを通ることになるが、それは保証できない。なぜならば、オーストリア海軍は小さいながらも優秀だ。ところがフランス海軍は度重なる政治介入により弱体化している。それでも、わが海軍が協力すればオーストリア海軍を圧倒できる。しかし、開戦と同時に地中海艦隊は本土に引き上げる予定だ。
(この発言の直後、この会議は終了した。長い1日だったが戦略の結論は出なかった。しかし、アスキスは海軍人事を総刷新する決意は固めたようだ)
アガディール事件に戻る