プロルス
ロシアの産業資本家はゼムゴールをつくって戦争に協力しようとしましたが、受注はそれほど伸びず、その過程で、スコムリノフ陸相が批判されたのは仕方がないことでしょう。
ただ、不思議に思うのはサゾーノフ外相のような人までがスコムリノフに批判的であり、かつ民主化にも熱心でした。サゾーノフはフランス人やイギリス人とつきあっていたので、ロシア専制政治を改善せねばならないと考えていたのは事実でしょう。ただ、戦争中であって、英仏がロシア政治制度の改変を即刻望んだわけではありません。
そのような国内対立は戦争遂行の障害となったのは確実です。
別宮
ただ、議会は一貫して多少の民主化、議会の権限強化を要求しており、サゾーノフのような漸進的な改善派は、左翼過激派にたいする有力なブロックでした。
プロルス
するとツアーまたはツアー制度を支持する勢力はなかった。
別宮
その通りでなかったんです。2月革命後に起きたことはニコライ二世夫妻が「裸の王様」であったことです。
プロルス
ラスプーチン問題はどうみますか?
別宮
その事件はアレクサンドラ皇后のスキャンダル事件として現れました。そして、ペテルブルグでもモスクワでも新聞に大々的に取り扱われていました。
ロシアにはオフラーナという有名な秘密警察がありましたが、戦争中も機能を失ったわけではありません。ただ、目的は王室の安全を図るというより、過激派の取り締まりが中心でした。つまりテロ対策ですね。このため大量の間諜(エージェント)を抱えていたわけですが、これは諸刃の剣でもありました。
つまり、対象は政府要人にも及んでしまいます。ウィッテが回想録を書くための原稿を常に、パリの銀行貸金庫に預けていたのは有名な話です。つまり情報収集とテロ対策が自己目的化しており、政府系とみなされる新聞が、官吏がリークした情報を報道することは、たとえアレクサンドラ皇后への中傷であっても。オフラーナは取り締まろうとしませんでした。
つまり、秘密警察は社会民主党と社会革命党のテロ対策にしか眼中になかったんです。これは日本の公安警察が左翼過激派などの取り締まりのみに熱心で、オウム真理教のテロには全く無力だったことを考えればわかりやすいと思います。
プロルス
ロシアに起きる事件はでも面白いですね。秘密警察が皇后の中傷記事に無関心で、官吏がその情報の火元とは、全くロシア的アナーキーですね。
別宮
それと大都市の市民が急速に反君主制度に向かいました。これの大きな要因はインフレです。
砂糖価格は開戦後数ヶ月にして50%ほど値上がりしました。そして石炭などの燃料も汽車輸送の能力不足から、供給が細ってきました。ロシアの鉄道は東西に走っていて、南北は目が粗いんですね。このため、農産物や石炭など南部の原材料が北に行かず、北部の工業製品が南に行かないわけです。
国土が広いことは必ずしも工業生産に有利に働きません。
また、インフレーションは労賃の上昇を招きますから、借金をしていない工業家も面白くありません。