ロシア的エスプリ

プロルス これまでをまとめれば、ロシア官僚制の欠陥、すなわち日本の統制経済のようなもの、ロシア産業や社会構造の遅れがロシア軍需生産の停滞を招いたということでしょうか?

これに加えてロシア領土が広大かつ人口が分散されているという要素も加わりますが、これは第二次大戦でも同じですね。

別宮 一般に国営企業が国民総生産に占める割合が大きいことは軍需生産にとり有利に働きません。兵器というのは複雑な工業製品です。当時の小銃でも部品点数は数百、機関銃であれば数千です。そのうえ精度は高く要求されます。

半面、製品歩留まりや欠陥率(耐久性)はそれほど要求されません。ところが歩留まりは生産性においては重要です。これがあって量産となると国営工廠より民間工場が有利になります。

技術革新や新兵器となると多くの研究組織があり、それを選択する能力が重要です。ロシアの場合は研究組織は少数の国営ですが、民間より研究者が長期間在籍できるという強みがあり、個性的な研究が可能です。また発注者も優秀です。ただ、ロシア的傲慢というのが指摘されることがあります。

プロルス ウォッカばかり飲んで仕事をやらないというのもあります。

別宮 無闇に便所を汚すとかですね。それはさておき、フランスの駐在武官が本国におくった報告には"un prodigieux esprit de routine"と多くあり、習慣的異常性向(エスプリ)とでもいうべきものが造兵官にはあったようですね。

プロルス それは厳しいですね。

別宮 それで"fatigues ou igonrants"(疲れ果てたか愚か者か)となりますが、日本語からすれば頑固ということになるかもしれません。

プロルス フランス人がいろいろいっても、誰も聞かないということでしょう。

別宮 フランス人にとっては生産増強のためアドバイスするのですが、受け入れず、そして前線からの砲弾の要求量の5%も生産できないとなれば、いいたくなります。

プロルス ロシア人造兵官からすれば、短期戦と思って緒戦で気前よく前線におくって、あとから長期戦になったといわれても困るというところでしょう。

別宮 なかなか臨機応変に対応できないというロシア的エスプリは確かにあったでしょう。ただ、統制経済というのは、できもしない役人が工場を監督することです。ロシア人に限らず、役人がトヨタやホンダを経営できませんよね。

ロシアでは天下り役人が工廠を経営し、かつ官・官接待が横行しました。原価の6割は賄賂ともいわれました。この点では統制経済より共産経済の方が有利でしょう。

日本でも市町村役場近辺の多くの料亭とは、昭和11年体制成立のころ新設されたといわれます。

プロルス ロシアでレストランの梯子をやれば体がもちませんね。

それでニコライ大公は開戦時、将軍を集めて「盗みは駄目よ」といったんでしょうか。