マーニャ ベートマン・ホルベーク内閣が超然内閣であることはわかりましたが、一体彼は国民に人気はあったんでしょうか?
別宮 あったと思います。というのはベートマン・ホルベークは、前述の1900年第二次海軍法について政府委員として演説しました。これがベートマンの出世の第一歩でしょう。
マーニャ 海軍はドイツ人からみて「育ちがいい国がもつ」という理由で人気があったという話ですが、ドイツにとって国境線はわずかです。国防とは陸軍ですし、陸海軍はいつの時代も予算分捕り合戦をやりますよね。海軍予算を推すことで、そんなに人気があったんですか?
別宮 ドイツは厳格な総動員体制をとっていましたから、成年男子のほとんどは陸軍に服役経験がありました。陸軍国は疑いありません。それと、人口稠密地に向かって敵前上陸されても、上陸地点に鉄道で倍する軍隊を派遣することは容易ですから失敗しますよね。ですから軍事的理由ではありません。
ドイツで海軍が人気があったのは内政上の理由です。まず旧神聖ローマ帝国の諸国で内海であるバルト海以外に海に面していた国は、ハンノーフェルくらいですよね。あとはハンザ都市ですが、これは国ではありません。
ですからドイツに海軍はありませんでした。ここはスウエーデン、オスマン帝国、日本を仮想敵として海軍を育てた同じ陸軍国ロシアとは決定的に違います。
マーニャ ドイツ人で海軍経験のある人はいなかったんですね。
別宮 その通りで、海軍とは根本的にドイツ帝国の所産です。意義としては膠州湾租借地とサモア・ビスマルク諸島の防衛ですが、これがため大海軍を植民地におくっても本国に控えても、おかしいですよね。
マーニャ それでも人気があった。
別宮 ドイツは新興工業国であり、産業として強みは製鉄業でした。製鉄業の利益の源泉は価格もありますが工場の稼動率が大きいんですね。新型設備ですから、規模が大きく、反面借入金が過大なのが特色でした。
稼働率を上げるには輸出を増やさねばなりません。ところが鉄鋼資本は、海外メーカーとの競争よって値段が下がることは防ぎたいんですね。ドイツの会計方式だと発注時に鉄の価格を決めてしまいます。これはまたとない注文ですよね。要は過大借り入れの会社はゆやかなインフレが必要で、政府発注は価格下落を防ぐ効果があります。
マーニャ でもお金はどうするんですか?
別宮 元々、帝国政府は関税と間接税以外、徴税権がありません。それゆえ帝国議会は権能が弱いんですね。ところが東プロイセンのユンカーは常に輸入穀物に対して競争力確保の観点から高率関税を要求しました。この農産物関税を海軍予算に振り向けました。
マーニャ でも労働者は「高いパン」に反対するでしょう。
別宮 この当時の社会民主党指導者は従来の政治的アクティブから労働組合リーダーに代わりつつありました。鉄鋼労働組合は海軍予算に賛成します。また軍艦をつくるには、たんに鉄だけではなくて、砲弾や埠頭、運河など多くの投資が必要で、それに係わる産業の労働組合は海軍予算に反対する理由はありません。
じっさいには、農産物関税だけでは足りず、国債も発行しましたが、緩やかなインフレをつくるのに効果的な手段です。ともあれ、ドイツ人で海軍予算に反対することは、帝国に盾つくようにみえました。
マーニャ なるほど議会操縦と国民の人気取りだったんですね。