国産兵器の価格高騰

プロルス 結局国産兵器の価格高騰が政治危機を招き、それがスコムリノフの罷免であった、と理解してよいのでしょうか?

別宮 そうみるべきでしょう。前回申し上げたのは設備投資ができない体質ですが、これは統制経済をやっている諸国では必ず発生する問題であって、スターリン死後のソ連もそうですし、日本の戦時経済もそれに該当します。

プロルス でも、ロシア陸軍省が国産兵器を使わない理由にはならないでしょう。スコムリノフは外国兵器の輸入を好んだではなく、予算的制約からそうせざるを得なかったのだと思います。

別宮 ただ認識しなければいけないのは、ロシア民営企業の効率が著しく悪いことです。イギリスやフランスの民営企業は戦時生産の拡大とともに、製品価格は下がっています。というのは大量生産が可能になるとコストが下がり、それに伴い、価格を下げることができるのは簡単に理解できると思います。

ところが、ロシア民営企業は価格が上がるのと同時に製品バラツキが増加するなど品質も悪化しているのです。もちろん、民営企業は国営企業よりも価格が高いのです。

例えば1914年末、75ミリ砲弾は民営14・25ルーブルであり、国営は6・4ルーブルです。75ミリ野砲は民営7千〜1万2千にたいし国営3千〜6千です。そして民営企業の価格はいずれも開戦当時は国営企業並みでした。

プロルス それは不思議ですね。でも急激な受注環境の変化とともに、民間企業は対応できなかった?

別宮 でも、ロシア陸軍省も前渡金を支払っています。ですから、原材料の調達で民営企業が不利になることはありません。

プロルス まさか、他に流用したんでしょうか?

別宮 ロシア議会はこの問題について特別調査委員会をつくり、とりわけ75ミリ砲弾について18・5ルーブルの高価格呈示をしたバンコフやパイヨーを調査しています。

その調査結果は不満足なもので「不明である」というものでした。ただ、腐敗はあったのでしょう。例えば前渡金を「博打」に使ってしまったケースなどが報告されています。これはいわゆるアジア的専制ならぬアジア的腐敗でしょう。

プロルス 10年ほど前に韓国で建設後1年もたたずしてデパートが倒壊したことがありました。日本でも耐震偽装事件というのがありました。でもこれは地震にたいして耐性がなかったという問題です。でも韓国の場合は自然倒壊です。大陸では、偽装や手抜きもスケールが大きいですね。中国のビルでは、しばしば鉄筋の代わりに「竹」が入っているそうです。

別宮 特別調査委員会の主宰者はセルゲイ大公ですが、答申としては多少前渡金を増やすといった対策を提案することだけでした。

帝政ロシアの国産兵器不振または民営企業不振は結局、平時における国営企業優先政策にあったと思います。つまり、統制経済では平時においては、品質について生産工程管理、検査についてそれほど厳しいことはいわれません。

ところが戦争が始まると、欠陥兵器にあたった兵士は 猛然と怒ります。これは当り前です。このため精度をあげることが求められます。ですが、日露戦争においても、ロシア軍の小銃の半分ほどは欠陥品だったのです。つまり、兵器の精度をあげるには、なるべく自動化した大型の工作機械が必要ですが、ロシアは第一次大戦以前においても、この点で遅れていました。すなわちスコムリノフは砲弾という製品ではなくて工作機械の輸入が必要でした。ですが、ロシア軍も戦争は短期で終わると予想し、これができませんでした。

平時において規模の小さい工作機械しか割り当てられなかった民営企業は、戦時になり陸軍省から精度をあげ量産するよう要求されると、新たに工作機械を国内メーカーから調達するしかなく、それが割高についたのです。

そして、兵器メーカーの使用する工作機械は民需にためのものと同一です。つまり、民間の輸送機器、精密機械、電気器具などのメーカーがあれば、そこから転用することは難しくありません。すなわち、ロシアにおける産業革命の進行が遅れていたというほかないでしょう。